第三話 見えてくるものは②

コンコン

小気味いい音が響く、目の前のメイドさんは少し緊張気味


「旦那様、ヨハン様、ウィーリア様、ファスト様をお連れいたしました」

「入れ」


音もなく開く扉の向こうには3人の人影が見える

一人はベッドの横で椅子に座った男性、黒髪で口ヒゲをキレイに整えられとても聡明な顔立ちの父、ヴォルフ

ベッドボードに背を預け赤ん坊を抱える女性、茶髪で気は強そうだが、優しき瞳に安心感を与えてくれる母、ヴィオラ

その母に抱えられこちらをじーっと見つめる男の子、両親の髪色を足して2で割ったようなくらい茶髪の弟、フォン


初めて見る赤ん坊、その弟に興奮をしているのが父にはわかったのか、穏やかな口調で「おいで」と手招きをする


「弟!弟!!」

興奮のあまり大きい声を出しながら近づこうとした時、姉ちゃんのウィーリアが注意をする。


この光景に何を思ったのか、両親が顔を合わせ静かに笑っていた。

ウィーリア姉ちゃんやヨハン兄ちゃんも笑っていた


どうしたんだろう?と思ったが、そんなことは置いておいてフォンのところへびっくりさせないようにゆっくりと近づく

目の前まで来るとその輪郭ははっきりと見える、目は母譲りでその顔立ちは父に似て聡明な印象を受ける


「あぅあぁー」

何かを呟きながら手をこちらへ伸ばすフォン、初めての弟ということもあるのだろう、しかし目の前にいる子に愛情というものが湧いてくる感覚に落ちる。

ベッドの横で手を伸ばし返すが届かない、父がそれを見てベッドに乗せてくれた。


「お兄ちゃんのファストだよ」

とても穏やかにそして伸ばされた手を握りかえしつつびっくりさせないように囁くような声で告げる


まるでよろしくと返事を返したかのように「あぅ」と言い笑顔になる、フォンを見た


これが天使か・・・・


天使はそこに居た。現実では羽なんて生えてなかったけしめちゃめちゃ小さいけど天使だった


「パパ、ママ僕がこのコ守る!」

「あぁ、お兄ちゃんとしてちゃんと守ってやれ」

「フォン、お兄ちゃんが守ってくれるって」


フォンがにぱぁっと笑い僕の方へ体を動かす

それを見て母はフォンから手を放し、まだ安定しないのかふらふらしつつ立ち上がりこちらに向かってくる、座った状態のファストと身長が同じなのか目線が合う

両手を伸ばしたかと思ったら僕に抱き着いて座り込む、

初対面ではあるのになつっこい姿に暖かい気持ちになる


今度はヨハン兄ちゃんやウィーリア姉ちゃんも加わる

「ファスト気に入られたな!」

「ファーちゃん良いな!私にも見せて!」


今久々に家族全員が揃った、今まで何かと忙しい父や兄ちゃん、母は妊娠や出産であまり家にいなく、お姉ちゃんは多分冒険で家を空けたりしていた

家族団欒は良いものだなと子供ながらに思う


穏やかに談笑をしていると、ふとヨハンは思い出した


「そう言えばファストももうすぐ6歳のパーティーがあるな」

パーティー?今までそんなことやっていなかったと記憶しているがなぜまた6歳にパーティーなんてやるんだろう?

そんなことを思い聞けば、6歳になれば教えてあげると言われた。

正直もう不快なまでに6歳まで教えてもらえない、半ばあきらめた時、父が口を開いた


「ファスト、6歳になるまで教えてもらえることと、もらえないことの違いってどんなことかわかるか?」

こんな質問するってことはこれに対する答えは教えてもらえるということなのだろう

しかし、違いはどこか…か

今まで教えてもらったことはゾシモスって大賢者のちょっとした話、冒険者Aランクの人数、グラントゥース・ボアの特徴、人類5種族の話、


答えてもらえなかったことは、6歳になったらどうなるとか、国のこととか?確か習慣みたいな物ってどんなのかも教えてもらえなかった気がする


ここから導き出せることは・・・情報が確立していることは教えてもらえる?いやでも6歳になったらどうとかはほぼ確立していると思うし、違うか。


なら過去の話?いやゾシモスって昔の人って聞いた気もする。違う、なら歴史?いや違うな

確立した歴史?これは合ってるかも?歴史上ゾシモスって言う大賢者がいた事は事実。冒険者もそうだし、ボアも5種族もそうだ。


6歳になったらどうかとかは確立していると思うが・・・これの謎は一旦置いておいて、国のことは確立していないってことなのかな?とりあえず今考えた「確立した歴史が答えられること?」と聞いた


「良い感してるな、ほぼ正解と言っていいだろう、すごいなファストは」

ハハハと笑う父

「少し直すなら人の思想が入っていないと考えられてる歴史だな」

「思想?」

「そうだ、ここで言う思想は。人にはこうなれ、こうなって欲しい、こういうふうに動かしたいと言ったことを考え、人をそっちへ誘導する、偏った考え、こういったことを大きく括って思想と言っている、これを用いない歴史を教えることを良しとしてるんだ」


「でも6歳からその思想を知ることになるんでしょ?」

「どうだろうな?全部がそうじゃないかもしれない、全部がそうかも知れないそれは自分で考え行動する物だ」


ニヤリと笑う父の姿は何か期待しているかのようなものだった

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大賢者、500年の時を経て転生 中慈晶 @pellbow716

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