第13話 とある一室で(夜)
「それでは始めようか」
暗い一室でその声を皮切りに始まる。
「ではまず私から報告させてもらいます。門番を聴取したところやはり例の国とのつながりが示唆され行方不明事件にも絡んでいる可能性が出てきました。」
「やはりそうか、しかしそう簡単に尻尾をだすとは思えんが」
「はい、これはかの国の計画ではなく…」
「欲に目がくらんだ貴族連中の仕業か」
「はい、そう思われます。」
「それにしても動きがずさんすぎるな。」
「昨今高まるこの街での利権を狙っているのでしょう」
「この街独自の統治体系を知らんはずもないというのに、その統治権にまで口をだしてくるなど愚かなことだ。自分が犯人だと言っているような愚行だ。」
「最悪ばれてもかまわないということではないでしょうか」
「そこまで事態は深刻化していると?」
「だがわからないな、まだ首謀者すらわかっていないというのに」
情報が乏しい中での推論に平行線を感じてかいままで議論を見守っていた少女が口を開く。
「愚かな貴族の独断とあちら側にもおろかな貴族がいたということではないでしょうか?」
これ以上この議論を続けていても意味がないと感じた団長は別の議題へと話を移した。
そして別の少女から報告が上がる。
「冒険者ギルドでは特に変わった様子もなく…」と報告を済ませようとしていたところで今日の出来事、多少の違和感を報告する。
「そういえば今日一人の少年が冒険者登録にきて見るからに異国の少年でしたが周辺諸国とも遠方の雰囲気でもなくあやしさはあったのですが要観察対象ということで登録を済ませたのをわすれていました。」
むりもないだろう。彼女らは様々な地域、様々な背景をもった民衆の監視をしているのだ。それにとりいそぎの件のこともある。そこに何の関係もないただすこしあやしいというだけの少年にまで監視の目が行き届くはずもいない。重要度が低すぎる事案に人員も時間も割けないのだ。
報告を黙って聞いていた団長の反応がないのが怒られる前触れだとでも思ったのか少女は焦って謝罪する。
「すみません。こんな大事な報告をし忘れていて、決してこのことを忘れていたわけではないんです。ただ情報量があまりに少なかったので」
その弁明を遮るように別の女騎士が口を開く。
「見苦しいぞ、もう言い訳はいいその判断を下すのは団長だ。あやしいやつがいれば報告するただそれだけだ。報告一つできんとはたるんでいるぞ」
「すみません」
当然の指摘に反論などできるわけもなく少女はうなだれながら反省の言葉を口に出す。
「副団長、そのへんで」
「すいません団長話をさえぎってしまって」
「部下の指導も大事ですが私はこの件で彼女らに一定の自己裁量権を与えています。重要度の低い事案を逐一報告されても困りますから。この件はそれほど柔軟な対応が求められる案件なのです。それに私は彼らの目を信じていますから」
「はい、出過ぎた真似をしました団長」そういうと副団長と呼ばれた女性は頭を下げるのだった。
ひとしきり報告を聞き終えると団長は口を開いた。
「以上だな、今日の報告はここまでか。」
その言葉を聞き各々が報告会が終わったことを安堵しようとした刹那、団長が口を開く。
「件くだんの冒険者登録をしに来たという少年だが、彼の調査はしなくていい」そうとだけ告げると騎士団の面々はちりじりになっていった。
部屋に残ったのは団長ともう一人の少女だけだった。
「だんちょぉー最後のどういうことですか?」
「どういうこととは言葉通りの意味だが」
「らしくないじゃないですか。あやしい者は一人残らず調査する。いままでしてきたじゃないですか。なのに今回はしないなんて。」
「報告にあった少年って門番にわいろ渡していた少年ですよね、気づいている者は多少なりともこの件を怪しく思いますよ。」
「それが何か問題でも?」
「問題って…だかららしくないじゃないですか」すこしだけ怒気をこめて少女、ヴェルデは言う。
「特例を認めるんですか?この件は捜査全体に関わりますよ。」
「しかしあやしくない者に人員は割けないだろ。」そう言いはしたが納得のいかない様子のヴェルデに根負けし正直に事情を話すことにした。
「はぁわかったよ」溜息とともに団長が事情を説明する。
その様子をみてヴェルデは自分の気持ちが団長に伝わったのだと思い喜びを隠せないでいた。
「だんちょぉー分かってくれたんですね」
「あぁ実はなあの少年はいま家うちにいるんだ。だから身の潔白が証明されなくとも何の問題もない。」
それを聞いてヴェルデはただぽかーんとするのだった。
「ナニヲイッテイルンデスカ」壊れた機械のように片言でされど文脈にあった返答をする。
「あぁ成り行きでな、たしかに皆の言うように危険性は感じないがあやしい。確かにあやしい。しかしそれほどの重要性があるともおもえない。だから一件が片付くまで放置というのが正しい軍の判断だろうが私の直感が彼を見張れというのだ。まぁなんにせよ偶然の出来事だ。」
ヴェルデは事の重大性を見誤っていたと自身に反省を促すがどうすることもできずただただ途方に暮れるしかなかった。
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