12-3. コールバック


         *



 一方。

 渕之辺 みちるとの対面を終えたイヴァンが診療所を出た瞬間、タイミングを見計らったように車が停まる。

 ハンドルを握っているのは、陶器人形ビスクドールのように無機質な肌と表情の女。


 運転席から降りたビスクドールは、後部座席のドアを開け、イヴァンはさらりとシートに腰を落とす。

 すべてが寸分の狂いもない動きだった。

 

「ビスクドール」

 運転席に戻ったビスクドールへ、イヴァンは声を掛ける。

「ついでだから、狐にも会っておくか」

 イヴァンはそう言いながら、スマートフォンに耳を当てている。

 電話で呼び出しているのは、狐だ。

 

「……かしこまりました」

 ビスクドールはルームミラーをちらっと確認して、わずかに眼を伏せる。

 

「申し訳ないね。気乗りしないのはわかっているんだが」

 狐はなかなか電話に出ないのか、イヴァンはビスクドールへ話しかけ続ける。

「狐が苦手なんだろう?」

「本音を言いますと、あの男には関わっていただきたくないです」

 ビスクドールは車を走らせながら、はっきりと告げる。

 

「安心して欲しい。情報を搾り取るだけ搾り取ったら、あの男は用無しだ」

 イヴァンの瞳は感情の色無く、宙を見つめている。

 そして繋がらない電話に舌打ちした後、一旦、スマートフォンから耳を離した。


「みちる様はお元気でしたか?」

 苛立ったイヴァンの空気を感じ取ったビスクドールは、話を振って、イヴァンの気を散らそうとする。

 

「あぁ、とっても。多少はしょぼくれていたら良かったのに」

 ビスクドールの言動は、今のイヴァンには逆効果だった。

 鼻で笑ってそう言うと、渋い顔で車の天井を見上げる。

 ビスクドールはルームミラー越しに、イヴァンの姿を見て、眉根を寄せる。


 信号で停まり、車の中が静まり返る。

 息をするのも重く感じる空気。

 それを破ったのは、振動音を鳴らし始めたイヴァンのスマートフォンだ。


 それは、狐からの折り返し電話だった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る