11. She's an ugly fake

11-1. 翼を捥ぐには



 イヴァンが乗り込んだのは後部座席。革張りのシートがイヴァンの重みにしなり、そして体に沿う。

 イヴァンを乗せた車は、ビスクドールの運転で墓地から発車する。

 ――みちるがいる、クガの診療所へ向けて。


 

リーシャロの連れ、もう一人の『六匹の猟犬シェスゴニウス』のメンバーがいるだろう」

 狐と梟の祖国、リエハラシア。その陸軍特殊部隊の名称が『六匹の猟犬』。

 政府軍の犬と堂々と名付けられた部隊だ、とイヴァンは心の中で嘲笑う。顔には一切出さないが。

 

「どうやら、狐とは別行動しているらしいな」

 サヴァンセと呼ばれる男が、狐とほぼ同タイミングで日本へ入国したのはわかっている。しかし、狐の口から梟の話は滅多に聞かない。


「はい。その通りです」

 ビスクドールは静かだがはっきりとした口調で答える。


「その点については、クガの手下から聞きました。口を割らせるのに苦労しましたが」

 ハンドルを握るビスクドールは、ルームミラーを一瞥する。

 イヴァンは何か物憂げに目を伏せている。膝の上で組んだ指先が、リズムを取るように動いてみえた。

 

「どうやら、梟というコードネームの男とみちる様は、親交が深いようです」

 みちるの名前が出た時だけ、イヴァンは目を開けた。剣呑な眼差しだった。

 

「ありがとう。ビスクドールは仕事が早いし的確だ」

 再び目を伏せたイヴァンは、口元を緩ませ、穏やかな声で言う。

 

 イヴァンから褒められたビスクドールは、口元が緩みそうになるのを堪える。

 イヴァンはそれに気づいているし、隠さなくていいと思っているが、生来真面目な性格の秘書なので、何も言わないことにしている。


「狐と梟は、仲が悪いんだったか」

 イヴァンの問いは、そこはかとない悪意が込められている。

 

「二人は、協力関係にあります。……個人的な感情については、私には……わかりかねます」

 ビスクドールは戸惑っていた。事実だけを先に告げ、推量にすぎないことはボヤかして伝える。


「探りを入れてみたら、また面白いかもしれないな」

 イヴァンは何かを思いついたのか、天井をちらりと見る。

 

「あの狐は狡賢いから、なかなか罠にはかからない。……だが、梟は夜しか飛べないような生き物だ」

 イヴァンの言葉は、生き物のコードネームをつけられた彼らの話をしているようで、生き物としての生態の話にも聞こえる。

 

 ビスクドールが慎重に相槌を打とうとした瞬間、

「翼を斬り落としてしまえば、飛べない」

 イヴァンは遮るように呟いた。


 

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