9-5. 暗躍


          *



 ホテルのベッドのシーツはぐしゃぐしゃに乱れている。

 それを直すこともせず、赤毛の男は、窓辺のテーブルに身を乗り出し、気怠げに頬杖をついている。ベルトを緩めたスラックスに、軽く羽織っているだけのシャツ。薄っすら汗ばんだ肌がほのかに光る。

 ベッドで仲睦まじく過ごした相手の女は、今さっき帰ったところだった。部屋に残った香水の残り香が、鼻をくすぐっている。

 

 狐の、榛色ヘーゼルの眼は、宙をぼんやりと見ていた。

 

 テーブルに置いたスマートフォンが震える。狐は表示された名前を見て、小さく息を吸う。

 ディスプレイに出ている名前は「I」。

 

「こんばんは」

 狐は電話を取るのと同時に、愛想笑いをする。

「えぇ……どうやら、蠍は死んじゃったみたいで」

 梟とみちるが、クガの診療所にいるという情報は持っている。みちるが今すぐ動ける状態でないことも、わかっている。


 電話の相手は語気強くドヤしているのか、狐の顔が曇っていく。

「大丈夫ですよ……蠍がいなくなった分、今度は探しものに専念できますから」

 上から圧力をかけてくる相手へ、宥めるように諭す。

 

「あなたが探し求めている、我が母国の新兵器の情報はもう、すぐそこに」

 狐はそう言いながら、空いた手でテーブルを軽く叩く。小気味よい音がした。

 電話の相手は乱暴に通話を切ったのか、狐はスマートフォンから耳を離すと画面を見て、渋い表情を浮かべる。そして、スマートフォンをテーブルに投げた。


「必ず取り返す」

 スマートフォンを睨みつけて呟く。それから、口角を上げ、肩を震わせ始める。堪え切れない笑いがこみ上げてきた。

 くぐもった声で口元を押さえながら、狐は笑う。その声は、次第に大きくなる。


 静まり返った香水臭い部屋に、狐の笑い声がノイズのように響き渡った。



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