8-4. 腐れ縁
「シャロちゃんから情報を得た蠍が、単身で乗り込んでくると思います? それとも、シャロちゃんも巻き添えにしてくると思う?」
フチノベ ミチルの口から出た二つの可能性。どちらも有り得る。
故郷と違って、地の利も伝手もない日本で、蠍が選ぶ方法は限られている。
「お前はどう思う」
自分からすれば、どちらでもいい。だから答える気にならなかった。
――来たら、受けて立つだけだ。
「それは、あなたの方がわかるんじゃない? 私よりも蠍のことは詳しいでしょう」
そう言ったフチノベ ミチルは、皮肉っぽい笑みを見せる。
「お前の意見を、聞いてみたいだけだ」
少し苛つきながら、フチノベ ミチルの答えを待つ。
蠍のことは詳しい、という言葉に棘しか感じなかった。
「私は……単身でくると思います。シャロちゃんを巻き込んでも、あなたは嫌な思いをしなそうだから」
フチノベ ミチルは、冷たい眼でこちらを見る。
徹頭徹尾、蠍は、自分に不快な思いをさせるために動いている。フチノベ ミチルの意見は、外れてはいないだろう。
「あの二人は仲が悪いしな」
ぼそりと呟くと、フチノベ ミチルの眼に力が入る。
「蠍は、シャロちゃんとも因縁が?」
フチノベ ミチルが尋ねてくる。
「俺との因縁とは、また違う方向性のものだ」
自分との因縁は、自分に責任がある話だ。だが、狐と蠍のそれは、お互いに原因があり、責任がある。
「蠍は直情型で、速攻。狐は策略を練って、時間をかける。性質が真逆。それに……」
「それに?」
フチノベ ミチルが言葉の切れ目を見逃さなかった。冷静な視線がこちらを捕らえる。
下手なことをした、と思ったが、ここまで来たら、話すしかなかった。
「軍上層部に好かれていた蠍と、上層部に逆らってでも自分の意志を通す狐とでは、噛み合うはずがない」
二人の性質の違い、そこへ立場の違いも相まって、お互いへの反抗心が燃え上がったのだ。
「それは……なかなか因縁深い」
フチノベ ミチルはゆっくり瞬きをして、眉間に皺を寄せた。
「サバちゃんとシャロちゃんは、そういう因縁はないんですか?」
「ないな」
今思い返しても、狐とは因縁というほどのものはない。
「……でしょうね。あなたは、そこまで人に恨みを買うようには」
「いや、敵からはさんざん憎まれている」
フチノベ ミチルはこちらをフォローしようと言ったのかもしれない。
それを無下にしてしまうのは、少しだけ気が引けたが、こう言うしかない。
「狙撃手は、敵に何をしたか、はっきり記録に残る。敵からは恨まれる」
狙撃手は捕虜になれない、とはよく言われる。
敵から憎悪を一身に受ける存在だからこそ、拳銃に込めた弾丸は、自決用の一発を残しておけと教えられてきた。
こちらの話を聞いたフチノベ ミチルの表情は、強張っている。
戦場を知らないこの女に、話すほどのことでもなかったかもしれない。
「狐とは、付き合いが長いんだ。同期入隊で、『六匹の猟犬』に入ったのも、ほぼ同じ時期。腐れ縁だけで続いている」
気を取り直し、狐の話に戻る。
「それでも、仲がいいとは言えないんですか?」
フチノベ ミチルの眼には、困惑の色が浮かんでいた。
「言えない。俺はあいつの情報網に金を払っているだけで、あいつは俺を金ヅルぐらいにしか思っていない」
腐れ縁でここまで続いてきたが、今回の件でいよいよ縁も切れるだろう。
フチノベ ミチルは、目を伏せて数秒、黙る。
「それでも、付き合いは続いてる」
それから、真剣な表情でぼそりと言った後、口元に笑みを見せた。
「それは、仲間って呼ぶものだと思う」
フチノベ ミチルの言葉に、自分は何も答えられない。
仲間、と言われるとしっくりこない。
だが、これが一般的には仲間というものなら、認めるしかないのだろうか。
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