第2話 クラス発表と鬼顧問
クラス発表までウキウキに待ち続けている鴇蔭は周囲が眼中になく、気まずく端っこで待っている彼女に気づいていない。
彼はそんなことなんてどうでもいいのだろう。
残り数分でクラス発表の紙が張り出させるにも関わらず、鴇蔭は約5分でダウンしてしまい、桜の木を囲むベンチに腰をかけてしまう。
しかし、まだ彼は見つかってしまうのではないかと慌てている彼女に気づいていない。
「お願いします……」
ボソッと呟いた鴇蔭は正門に入る前と同じチャンレンジはしなかったようだ。
すると、ゾクゾクと同級生が体育館前に集まり始めて、クラス発表の紙を持つ先生が歩いてくると、みんなは更に大きな声で騒めき始める。
今年も同じクラスかなとか、あの子と一緒のクラスがいいとか、あいつとは絶対に同じクラスになんかとはなりたくないとか、ポジティブな意見からネガティブな意見まで聞こえてきて、少しずつ興奮し始めている鴇蔭。
しかし、それはもう覚えていなく自身が何組になるかにだけを集中している。
なぜなら、今日一番のやりたいことであり、彼は「1」という数字が大好きだからだ。
鴇蔭は大好きな祖父母の話しはなんでもかんでも真剣に聞き、信じるタイプである。
彼が幼稚園児頃、祖父母の話しを聞いていると、「1」という数字は無限の可能性を秘めているという話を聞いてから、ずっと彼は「1」という数字に気に入っている。
そのため、何に関しても「1」を目指している。今日もその「1」を目指して、一番乗りで学校に着こうとしていたのだが、さっきの彼女にそれを越されてしまった。
本当なら致命的な傷を負いかねない事態でもあった。
でも、もうそんなことを覚えていない鴇蔭なため、致命的な傷を負うまでには至らなかった。
鴇蔭は心の中で祈り唱え続けている。
「1」という言葉を胸にして、1組になれることを………
無理だと理解しているのだが、できれば出席番号も「1」であることを………
そして、その時が訪れた。
鴇蔭は無事に1組になることに成功して、出席番号も「11」というダブル無限を手に入れた。
彼はガッツポーズをして最高の喜びを手に入れたが、それは一瞬の出来事で幕を閉じる。
「良かったな!鴇蔭」
鴇蔭のパートナーである田中 玖縫 (たなか くぬい)は鴇蔭の肩に手を置いて褒め讃える。
「ありがとう。草薙」
玖縫は幼い頃から草薙という幻想の武器に憧れて、自らあだ名にして欲しいと鴇蔭に頭を下げて頼んだ過去を持っていた。
鴇蔭は素直に玖縫にお礼をするのだが、その玖縫が彼をドン底に陥れる爆弾発言をしてしまう。
「おう!去年は7組9番と「1」からもっとも離れた最悪な数字だったからな!よかったな!ん?」
その「1」からもっとも離れた数字が鴇蔭に耳に届いた時。
玖縫はやっちまったと確信し、鴇蔭は身体を崩し、両膝を地面について嘆く。
「やめろぉぉぉ!!それは「1」からもっとも離れた悪魔の数字だぞぉぉぉ!!うわぁぁぁ!!」
補足説明をすると、碧薔薇学園の一学年は7クラスあり、1クラス40人である。なので、「1」からもっとも離れた7組に入り、しかも、1〜9の中での「9」になってしまったため、1年生の最初の彼の気分はドン底にあった。
鴇蔭はそのドン底を思い出してしまったため、現状に至っている。
彼の大きな嘆きに周りにいた人、数名は驚くがいつものことかと理解しているため、ただうるさいぐらいとしか思っていない。
普通なら玖縫も公衆の前でパートナーがこんなことをするものだから、恥ずかしくなるところだのしれない。
しかし、もう慣れているので、うるさいぐらいしか思っていなかった。
「ごめんて。また今度ラーメン奢ってやるから、気分を直してくれ」
「うわぁぁぁ!!」
話しが効かない彼は何をしても彼の気持ちが落ち着くまでは無駄であるということを知っている玖縫は自身で止めることは諦めた。
彼女はそれを遠目で見て思った。
この人、情緒不安定で怖い……と。
///
場面は変わり新年度初の新教室へと移る。
彼らは運が良かったため同じ1組であり、クラス内はいろんな声で賑わっている。
彼らも部活の後輩たちが楽しみの一つであるので、ワイワイとしていた。
鴇蔭は踊っている。
しかし、1番後ろに座っているさっきの彼女は誰とも喋らずにただ椅子に座って窓の向こう側を眺めていた。
ずっと踊り回っていた鴇蔭はその彼女が見えてしまったため、彼女は不幸にも彼は思ってしまう。
外は運動場と住宅地が並んでいる一般的な風景なため、なぜそんなにも気にして見ているのだろうと。
目を輝かせて近づいていく彼に彼女はまだ気がついていないが、だんだんと死刑宣告にへと向かっていることは確かなことである。
玖縫は一応それを止めようとはしたが、さっきと同じく鴇蔭はもう誰にでも止めることは不可能なため諦めていた。
一方、彼女はこんなことを思っていた。
なぜさっきの男の子は私になんかに声をかけてくれたのだろうと。
そう彼女は外の景色を眺めていたわけではない。偶然窓の外を見ていただけで、特に意味や意図などはない。
それを知らない鴇蔭は聞こうとした理由なども忘れて無謀にも声をかけてしまう。
「何してるのー?」
「えっ!?」
彼女は鴇蔭がまた声をかけてきたことに驚いてしまう。
さっきのは彼女自身から質問をしたためしょうがないにしろ、今度は彼の方から声をかけてきた。
そのため、先程のようにはいかなく、彼女は勇気が出ないまま数秒の時が流れる。
ラッキーなことに鴇蔭は喋らずに怖がられない笑顔に意識して彼女の返事を黙って待っていた。
それで鴇蔭は彼女が鶏と戯れていた人だということは覚えていない。
数分間、無の時間が流れ、始業のチャイムが鳴る。
彼女は助かったと思っているが、鴇蔭は更にショックを受けて自身の席へと帰っていった。
淡々と放送での始業式が終わり、みんなが校長の長い話終わったあーと気を抜かしている頃。
彼女はちらちらと鴇蔭を見てきている。
しかし、鴇蔭は全く気づいていないというよりかは周りを全く気にしていない。
彼女はさっき喋れなかったことに負い目を感じているのだろう。
せっかくこんな自分に話しかけてきてくれたのに…話すべきだったと、彼に悪いことをしてしまったと後悔している。
気づいてくれない鴇蔭に彼女は長い溜息を吐いてしまうが、悪いのは自分だということは理解している。
彼女はまたやらかしてしまったと首をがたつかせた。
一方で鴇蔭は特に何も思っていなく授業を受けている。
彼はやりたいと思ったことはすぐにやってしまう特質があるのだが、特にやりたいことがないときは他の学生とそんなに変わりはない。
少し変わっているところを言うとするならば、勉強と運動が平均的な数値より上にいることぐらいだろう。
そして、時は流れ初日から6時間授業という地獄は終わり、みんなは下校を始めていた。
鴇蔭は何事も気にすることなく、玖縫と一緒のクラスである高牧と菅原と共に部活に向かおうとしている。
高牧と菅原は同じサッカー部の仲間たちである。
彼はスマホの電源を付けて開く。
彼のスマホには一件の連絡が届いていた。
「鴇蔭のスマホに通知が届いているなんて珍しいな」
玖縫は鴇蔭の肩に顎を乗っけて驚いた。
「え?そうなのか?ゲームをしないこの俺でも毎日、数件は来ているんだぞ?」
「菅原は知らないと思うけど、残念ながら鴇蔭さんもゲームはしていないし、しかもメール,設定,◯◯ole以外のアプリは入っていない」
はてなを浮かべている菅原に、高牧は彼が人外であることを説明をしたのが、菅原はまだ理解できていないようだ。
「補足説明をこの草薙がしよう。鴇蔭くんはあまりにもの興味のなさに必要のないものは入れておらず、しかもほぼ使ったこともない」
「じゃあスマホ持っている意味なくね?」
「ああそうとも。この草薙もそれを鴇蔭くんの両親に言ったことがあるのだが、メールは必要と言われて撃沈をした」
「それはそれでドンマイ」
彼らは鴇蔭の現代人とは思えない凄さに驚いているが、本題であった一件のメールへと再び目を向ける。
「それで鴇蔭くん。そのメールはなんだい?」
本日2人目のはてなを浮かべていた鴇蔭は、口を動かす。
「おう、開いてみたら、両親から部活を休んで、速攻でこの住所のところへ来てねWink」
鴇蔭は可愛らしくWinkをしたのが、ここにいる玖縫たちからはキモがられた。
でもいつものことだったので、そんなに気にすることはない。
「ほうほう。それで部活を休むという重大さを知っていて言っているのかな?鴇蔭」
「ああ大丈夫さ。高牧 千悠 (たかまき せんゆう)よ」
鴇蔭たちの所属するサッカー部は鬼顧問として有名だ。
ミスをするごとに最後の自主練でグラウンド2周をミスをした数分かけられてやらなきゃならない。
例えどれだけ上手い人でも、毎日最悪でも4,6周はしている。
しかし、彼はなぜかその鬼顧問と気が合っていて、歴代屈しでミスと判定される回数が少ない。
それを根拠として鴇蔭は千悠に言ったのだろう。
しかし、それは千悠も菅原も承知していたことであり、彼らは他のことで頭を悩ませている。
「安心しろ鴇蔭くんよ。パートナーであるこの草薙がどうにかしよう。さあ行ってこい」
「ああ行ってくるよ」
玖縫はドヤ顔で鴇蔭を送り出したのだが、実際すごく怒られるのは送り出した彼ら3人なため、その他2人はすごく嫌そうなオーラを醸し出していた。
この時、鴇蔭は気づいていない。
メールの奥底に桜木さんとのお話と書かれていることを。
そして、その後、千悠と菅原は鴇蔭が休んだ原因=主犯者である玖縫を鬼顧問に差し出し、彼はグラウンド10周が追加されたのであった。
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