無縁だったひとりぼっちな女子と親に勝手にお見合いされて、勝手に夫婦にさせられた件
とっきー
第1話 禁断の地 鶏小屋
桜咲く高校2年の春。
親によって、波乱の展開へと迎えた2年目の高校生活は俺の人生を急転する年になる。
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桜の花弁が鼻に舞った。
真っ直ぐ貫く眼光に、寝癖のないストレート。
身だしなみはきちんと整えられていると思いきや、制服には何かしらの動物の毛が少々ついている。
1年間、やりたいことをやりまっていた遠藤 鴇蔭(えんどう ときかげ)はクラスでも学年でも頭一つぶち抜けた存在となり、周囲から頼りにされている存在でもあった。
そして、彼は今とあるチャレンジをしている真最中である。
鴇蔭は大きく口を開けて桜の木のてっぺんを見て立ち止まっている。
彼は落ちてくる桜の花弁を口の中に入れたがっている。
でもなんでこんなことをしているかは彼自身も考え始めるとよくわからないそうだ。
ひらひらと数枚の花弁が不規則に落ちてきているのに、彼はその場で立ち続けている。
「10分……時間切れだな。門を潜るとするか」
鴇蔭は制限時間を儲けていたようだ。
その制限時間が切れると彼は決めていたかのように名門碧薔薇学園の正門に着き、お辞儀してから入る。
鴇蔭は礼儀正しいとはまでは言えないが、やる時はしっかりとやる奴である。
でも正門の前でお辞儀したのはこれが初めてのことであった。
それも彼自身もお辞儀した根拠も考えも持っていない。いや、正確にいうと覚えていない。
鴇蔭は物忘れが多い人間であるからだ。
彼はその特質上その日、一番大切に思って行動したい一つのことしか記憶に残っていない。
これを良い捉え方をするとしたなら、とても精神が安定していてポジティブに生きる人間であることだろう。
そして、鴇蔭は碧薔薇学園でもっとも知られていないところに行きたかったのか今の時代だと珍しい鶏小屋に足を運んでいた。
「碧薔薇の〜鳥ちゃんは〜凶暴で〜有名ぃぃぃ」
珍しいまでもあって、碧薔薇学園の鶏小屋は校長にまでも恐れられている禁断の地でもあり、厳重に管理され、選抜された人にしか行く権利が与えられていない。
それを知らない、いや覚えていない鴇蔭は禁断の地に安易に足を踏み入れてしまう。
謎のリズムでノリノリの鴇蔭は一番乗りに上機嫌だったが、先客がいたようだ。
そのとき、鴇蔭は少しショックを受けていた。
そこには華奢な清楚系女子が指を鶏に突かれて戯れていた。
「ふふ、くすぐったいよぉ」
猫背でもなく、平背でもない正しい姿勢、毎日きちんと丁寧に仕上げられていると確信できる胸元にかかる艶やかな髪、容姿は綺麗なほどに整っていた。
長細い眉毛に、顔立ちも鼻先とあごの先端を結んだ直線に唇は内側。
自分このみな理想的な人であり、メガネを外した方が良いと思えるほどのものである。
鴇蔭はそんな思考をすぐさま捨て去り、ショックを思い出す。
「おっとと…」
「んっっ!?」
こんな禁断な地に人が来たことに驚いた彼女は後ろへと倒れて尻もちを着く。
するとさっきまで上機嫌であった鶏たちが鴇蔭に向かって猛ダッシュをしてくる。
「コケッッ!!」
鶏たちは彼女との時間を邪魔されたことにブチギレたのかそれとも鴇蔭自身に気に食わなかったのかおそらく前者なのだろう。
3匹の鶏たちは自身の持つ翼を広げて彼に飛びかかる。
だが鴇蔭は一歩も逃げようとしない。
(もしものときは正当防衛かな)
「ダメッ!」
彼女は両腕でガッツポーズをしながら大声で叫ぶと鶏たちは時が止まったかのように静止して何事もなかったかのように少しぶろけた小屋へと戻っていった。
(おそらく違うと思うが……)
彼女は下を向きながら勇気を出して逃げなかった鴇蔭に問いかける。
「なななんで、逃げなかったのですか……」
(逃げる事ではなかった)
とは言えざ、可愛く叫んでくれたから助かったと言おうとするが、この状況ではまずいと悟ったのか笑顔を作って言葉を変えることにした。
「彼女らの時間、空間を邪魔したのはまず俺自身だ。だから、俺には罰を受けるだけのことをしたし、死にはしない自信はあるからな」
そっぽ向かなずにちゃんと彼女の目を見る鴇蔭。
彼女はこれだけでは理解仕切れなかったのか意味がわからなかったのかもう一度鴇蔭に勇気を出して問いかける。
「そそそれだとしても、ななんで……」
鴇蔭は彼女が勇気を持って言ってくれていることに関しては気づいてはいるが、自分自身の発言に戸惑っていることには気づいていない。
「もし俺がいなくなったら、君が怪我をしていたかもしれない。なら、この事態を起こした本人が怪我をした方がいいだろ?それに悪いと思っているしな。あとメガネ外した方がいいよ」
鴇蔭はいつも通りほぼ無意識で発言をしている。だが、ほんの一瞬だけは考えて発言しているため、無意識というよりかはもう覚えていないの方が正しいのだろう。
そして不意に出てしまった最後の発言は、一生をも背負っていくことになるだろう。
「っっっ!!??」
彼女は頬を赤めらせて、鴇蔭の発言の意図があると理解してしまったらしく、砂埃を立てて、飛び出してどこに行ってしまった。
鴇蔭はちゃんと笑顔を作っていたつもりなのだが、自身の表情が怖かったのだろうとまたショックを受けてしまう。
彼は気持ちが落ち込む中ではあったが、そろそろ集合時間でもあり、クラス発表が今日一番の楽しみであったため、気分を切り替えることができた。
以後気をつけようと厳しく心掛けながら、ウキウキに体育館前へとスキップして向かうのであった。
このとき、鴇蔭はまだ知らない。
嫌でも好きでもない彼女との夫婦関係。
これから俺は同級生の彼女と生活をしていくんだ。
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