甘さと鼓動が交わる時間

 この物語には、静かに積み重ねられた時間の温もりが詰まっています。勉強を口実に彼の部屋を訪れる彼女は、いつもと変わらないはずの時間に、ほんの少しの違いを感じています。ノートを開く音、シャーペンが紙を滑る感触、何気ない会話――そのすべてが心地よいのに、ふとした瞬間、彼の視線に気づいてしまう。

 何度も通った部屋なのに、ドアの前で深呼吸してしまう理由。勉強に集中しているはずなのに、彼の言葉に心を揺らされる理由。チョコレートの甘さと、彼の言葉の温度が交わる中で、彼女は気づかぬうちに、その距離が少しずつ変わっていることを知ります。

 「可愛い」と言われたときの鼓動、「手を繋いでいい?」と問われたときの躊躇い。そして、ほんの少しだけ触れ合うぬくもりの中で、「離したくない」と呟く彼の声。その一つひとつが、日常の中に紛れ込んだ特別な瞬間として胸に刻まれていきます。

 言葉にしなくても伝わるもの、けれど、言葉にしなければ伝わらないもの。その狭間で揺れながら、二人の時間は甘く響き合っています。