02 好きと好き
「ぷひゅ~……疲ろ、れろ、らるぅ……」
インタビューを数件終え、へろへろになった一絵が言う。口が回らないにしても妙なつっかえ方でちょっと面白い。
「お疲れ、上出来だったよ。特に……あはは、好みのタイプを聞かれた時は、あれはよかった」
「も~笑っちゃってさ~……焦ったんだからぁ……ヘンなこと言ったら年棒が減っちゃう! って思うとやっばいね……」
わりとゲスな話題も扱うニュースサイトのインタビュアーに恋愛絡みのことを聞かれ、慌てふためいた一絵は僕の指示を待たず……
『こ、好みのタイプは……は……せ、生活力のある人! れ、冷蔵庫の余りでちゃちゃっと一品作れるような!』
なんてことを言ってたのだ。これはポイントが高い。
このインタビューは僕たちがプロ異能選手として成功して、より多くのお金を稼げるようになるためのもの、って割り切ってる僕でさえ、なんだか微笑ましくなってしまって笑ってしまった。しかもそれは、恋愛的な好みのタイプというより……。
「ふっ……ふふっ……単なる食いしん坊じゃないかよ……」
ウーバーの仕事から帰ってきて、疲れた彼女をねぎらおうとすると開口一番、いつも死にそうな顔で言うのだ。お腹すいたぁ……なんて。
「えへへ、育ち盛りですから~」
そう言うと腰に手を当て胸を張る。イブニングドレスはいつもより締め付けが緩いのか、それとも、そういう下着だからなのか、いつもはちっとも揺れない大きな胸が少し、ふるん、として、僕は慌てて目をそらした。が。一絵はそんな僕を見て、目を丸くして驚く。
「あ! 今ちょーーーおっぱい見てた!」
「み、見てない……い、いや! 見たけど、すぐ、見ないようにした」
「あはは、いいのに別に、そんなに気にしなくて。っていうか太陽ってさ、すっごいそういうの気をつかうよね、なんで?」
「なんでって……僕はいやなんだよ、そういうの……」
一度気にしてしまったら……それこそ、地獄だ。当分の間まだ、一つの屋根の下で暮らすのだ、僕たちは。
この子はボクに優しいからきっとボクのことが好きなんだ! なんて童貞思考を抑えるのにただでさえ必死だっていうのに、そこに、うわあでっかいおっぱいだやわらかそーだなあ! なんて思考まで抑えるのに必死になったらきっと、僕は炸裂して死んでしまう。
「それに……ヘンなことしたら二胡さんにぶっ飛ばされて、家から追い出されてホームレス少年になっちゃうんだぜ僕は……君がセクシーランジェリー一丁でウフ~ンアハ~ン言ってても、へえ変わった民族衣装と舞踏だね、って答える準備は万端さ」
そう言うと一絵はぶふっ、と吹き出し、僕の肩をぱんぱん叩いた。
「あはは、ごめんね、二胡は……うん、私のこと、世界一好きだから」
「ほんっとに……すごいな、君ら二人は……」
僕は本心で、呟いてしまう。僕があと百年生きたとしたって……今の一絵さんみたいに、誰かが自分のことを世界で一番好きだ、なんて、言えるようになるだろうか?
「あはは、太陽だって私のこと好きでしょ? それに私も太陽のこと好きだよ」
まあ、そういう風になれたとしても……今の一絵さんみたいなことは絶対に、言わないようにしよう。
「あのな、君……僕みたいなヤツに、そう言うことを言うもんじゃないぞ」
「なんで?」
「なんでもクソも……」
純粋な、純粋すぎる目が僕を見つめる。
そうなのだ。
こいつにとっての好き、というのは、だいたいすべてが……恋愛絡みのことじゃなくて……。
恋愛よりもっと上の、好き、なんだ。
「はあ……まったく……」
「なんでそんなため息ついてるのさ、ほら、もうすぐおいしいのいっぱい食べれるよ! さっき総理の人呼ばれてたから!」
「まあいいやもう……って……き……オマエ、それは……」
「……やっぱ、ダメ、かなあ……? 二胡に、食べさせてあげたくて……」
少し気まずそうに、かなり恥ずかしそうにしながらも……イブニングドレスと合った小さな、高そうな、ハンドバッグから
「まず、なんで、いいと思ったんだよ……」
「き、気付かれないよ、きっと、みんなお話に夢中だから……」
「係の人が目の前にいるんだぞオマエ……」
いつの間にか彼女の両手には……いつもは僕が、余ったおかずを入れておく空のタッパー。豪華なホテルの豪華なパーティ会場に、これ以上似合わないものもないだろう。
「え~……だって~……二胡に約束しちゃったんだもん……」
「わかった……わかったから、後でなんか……ホテルの人に頼んだら、なんかはしてくれるだろうから……とりあえずそれをしまってくれ……」
「え、そんなサービスあるの!?」
たぶんないけど……あるってことにしとかないとこいつ、マジでやりかねない……ああでも、オヤジがこういうパーティに出てた時は、なんか、ホテルのおみやげ的なヤツを持って帰ってきてた時、あったな……あるのか?
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