03-02 自分と相手
まるで巣を壊された蜂みたいに、縦横無尽に宙を飛び回る一絵さん。なんとか龍虎掌をずらし、その隙を狙おうとする……の、だけれど。
ぐるぐる宙を回転しつつ、タイヤで自分を押しつぶそうとしてきた一絵さんに対し、K5さんは……。
垂直ジャンプ。
まったくなんの予備動作もなく、その場で垂直跳び。
軽々しく五メートル程度、一気にジャンプ。
「「……はぁぁぁぁ!?」」
こっちが物理法則を無視してても、相手が無視してくるのはやっぱり、納得がいかない。僕と一絵さんは声を揃えて叫んでしまう。特に僕は、映像で何回も見て、彼の強みはそこにある、と知ってるのに……目の前でそれを見たら、やっぱり、信じられなかった。
『ああ、出ましたね。個人的にはこれがK5選手の一番の強みだと思っているんですが……彼の異能は格闘ゲームの再現。そんな異能の中で、もっとも現実離れした力は……この、ジャンプです』
格闘ゲームの、どこが一番現実離れしているか?
それは、気弾を放出して飛び道具にできることでも、防御してればダメージをくらわないことでもない。
なんの助走もなく、自分の身長の三倍ぐらいはジャンプできること――時には、空中でもう一度ジャンプできること――それに尽きる。
一絵さんの頭上をとったK5さんが、鍛え抜かれた(という設定の)拳を振り下ろす。その必殺の拳をスピード回収からの、その場急落下で避ける。くそ、一気に攻守が逆転した……!
『これぞ神仙流ッ! 具体的には垂直ジャンプ大パンチ! 神楽選手、辛くも回避、着地するが……そのままクソ長持続で上空から襲い掛かるK5!』
『ゲーム的な常識と言ってしまえばそれまでなんですが、どんな格闘技においても、いや、人類の戦いの歴史を細部まで紐解いても、この距離をたやすく跳躍できることを前提にした技術体系というものは存在しません。また、出し終えた技が……』
解説の人が解説を続ける中でも、攻防は続く。
頭上を取られた一絵さんはその場で急加速、大パンチから逃れる。そこを好機とみたのか、背中を炎陣虎爪で追いかけるK5さん。だが背負ったウーバーのバッグでそれをガードすると、その勢いを借りて猛加速、ターンと共に速度回収まで入れて再び正対。
「ぅりゃっ!」
一息の休みも入れず再び猛加速。一直線に突っ込んでく。
K5さんは
ひらひら、ローリング機動で躱しながら突進を続ける一絵さん。
はためくスカートの裾が、
距離はもう二メートル程度、一挙手一投足の間合い。
これが路上なら絶対に交通事故を覚悟する間合い。
だがK5さんは不敵に笑い、
無敵対空技は、対空するためだけの技じゃない。
無敵時間を使い、地上の迎撃、切り替えし技としても使える。突進を続けたら間違いなく、自転車ごとぶっ飛ばされる機動。だけど。
「ばっかちーんっ!」
僕らの狙いは、その
一絵さんは速度を全回収して急停止。
現実の光景とは思えない、まるで動画を一時停止したみたいな止まりっぷり。この急激なストップ・ゴーこそ、一絵さんの強み。
「そうだ、異能バトルは常に、裏の取り合い……勝利は思考の先にあるんだ」
だけど。
K5さんも龍虎の構えを急停止……というか、ただのジャブを素振りする。龍虎掌のモーションに似た、立ち中パン……!
今度は向こうがこっちを釣ってきた、やばい……っ!
炎陣虎爪の構えが見える、いや……少しタメが長い……ということは、ゲージ三本使う超必殺技の
「一絵ッ!」
僕は思わず、叫んでしまう。
ここだ。
奥の手を使うなら、今しかない。
「……
すべてを察した彼女は、ハンドルから手を離す。
だがもう、K5さんの超必殺技予備動作は終わっている。
「
演出の光さえ見えたと錯覚するほど鮮やかに、K5さんの脚が炎に包まれ、そして一絵さんにとびかかり……。
「
彼女が叫び、その両手がK5さんの脚に触れる。
瞬間。
「……なッッ!?!?」
すべての速度、運動量を失ったK5さんは、そのまま地面に落ちる。
「ひ~き~に~げ~……」
そして、
「アッパー!!!!!」
K5さんの顎めがけ、自転車ごと
クリーン・ヒット。
為す術なく遙か後方に吹っ飛ばされ、闘技場の壁に叩きつけられるK5さん。そのまま力なく崩れ落ちたところで。
「ダメ押しッ! ひきにげストーーーーーーーンプっっ!」
残しておいた速度で飛び上がり、追い打ちを喰らわせる。
けど、自転車が彼の、体の上にのしかかるか、かからないか、ってところで。
「…………よかろう…………」
倒れてたはずのK5さんの体が、赤黒いオーラに包まれ、揺らめき……そして、消えた。
「その力、我が敵に値するッ!」
ドンッ、と会場中に響く足踏みを見せると、右手に赤黒いオーラを集中させ、どうしてか、僕のすぐ側で、バキッて音がしたかと思ったら……。
「バカ野郎! 新人相手にシュラ出すヤツがあるかよバカ殺す気かアホ!」
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