03 中二病とバカ

零種ゼロス概念系異能コンセプト起動せよアクティベート!」


 すでに日の暮れ始めている河川敷で、僕は呟く。


 頭の中に、今日までずっと思い描いてきた、使いたかった異能、もって生まれたかった異能、そのすべてを順繰りに思い出していく。それを使うための予備動作、詠唱、的なやつも、逐一。それらを組み合わせ、彼女が持つにふさわしい異能を世に顕現させるための呪文、的なやつを、自ら編み出していく。本当のことを言えばこの一週間、ずっと考えてたのは彼女の異能の名前より……こっちだ。




 中二病を楽しむコツは一つ。


 マジでやること。


 俺はわかってるオタクだからあえてこういうのをやっちゃうぜ、みたいな言い訳はいらない。

 

 頭を十四歳……どころか、五歳ぐらいにして、その五歳を、がっかりさせないように。




「第一認証『ラプラス』解除……第二認証『マクスウェル』解除……最終認証『シュレディンガー』解除……」


 両手を胸の前で掲げ、そこにイメージの塊を凝縮していく……イメージ。

 インタビューで壺をこねてる人みたいでもあるな、ってちょっと笑いそうになるけど、ここは我慢。なにせここは、僕の、一生一度の晴れ舞台。


 今までずっと考えてきた、カッコいい詠唱で、本当に、異能を使えるんだ。

 自分の妄想が、今、現実になりつつあるんだ。

 そう思うと、中二詠唱をかわいい女の子の前で堂々やってる、みたいな恥ずかしさはもう、みじんもなかった。ごくっ、と一絵さんが僕を見ながら、唾を飲んだのがわかる。よかった、一絵さんが、こういうのを見て聞いて、笑うような人じゃなくて。


「全耐愚検証フール・プルーフ破棄。最終起動シーケンス、詠唱スペリングへ移行……」


 掲げた手の中に、本当に、薄青い光があらわれる。

 きらきらと輝く半透明のその光はまるで、iリーグと同じぐらい貪るように見た、ムカシのアニメのCG的な光そっくりで、僕は少し泣きそうになる。


 異能を、使ってる。

 無能の僕が、異能をふるってる。


われは求める」


 厳かに、静かに、けれどはっきり、言う。


ことわりなき力を。我は求める。よしなき力を。我は求める。願いの具現を。猿が猿に願う猿の夢、故にその名を〈三つの願いモンキー・マジック〉。その絶対を以て、我、ここに命ず」


 ……本当のことを、言えば。


「顕現せよ。異能よ、顕現せよ。これなるは神楽一絵の、その身の中に、余人の能わぬ異能を顕現させしめよ。我ここにその本質を呼び、超常の力の顕現を、かの好女えをとめのその身の中に求める……」


 彼女に作りたい異能の名前、二つ名、全部、最初から決まってた。

 ただそれを口に出して言うのが恥ずかしいから、黙ってただけだ。

 それでも、僕の恥ずかしさなんか、もう、どうでもいい。


「それなる力の本質は神速也。不可逆の力を以て力学を支配するけん也。人身に能わざるその力を、狂気を以て支配する逆理ぎゃくり也。我、ここにその力の名を呼び、いざ相見える……」


 われってなんだよ、だの、なりってなんだよ、だのも、もう、どうでもいい。


 一絵さんみたいないい人に、これ以上、辛い思いをしてほしくない。

 僕はただただ、そう願いながら、その名前を呼んだ。

 彼女が持つべき異能、そして彼女がそれをふるう様を、頭の中に強く、描きながら。






「〈自転車狂時代クレイジー・ライダー〉……!」






 …………ライダーはバイクだって?

 ふん、知るかバカ。こっちの方がかっこいいだろ。

 それが、すべてだ。

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