02-01 異能と法則
今日という今日は、一絵さんにちゃんと、異能を作らなければいけない。
僕は待ち合わせ場所の河川敷、人気のない橋の下に佇み彼女を待ちながら、強く思った。
一ヶ月後には全チーム合同のiリーグトライアウトが開催される。二部と三部のチームがメインだけど、そこから一部に這い上がっていった選手も沢山いる。それまでに、必殺技や戦い方なんかを一から、編み出してかなきゃならない……。
ん、だけど。
「はぁ……」
僕はため息をついてしまう。
〈
普通の異能なら、生まれた時から使ってきて、それこそ自分の手足みたいに何も考えず動かせるんだろうけど、僕はそうもいかない。説明的なものは、あのアジトの研究室の中でしてもらったんだけど……その説明がどうにも、曖昧だったのだ。
僕はあらためて、あの日の出来事、アジトを抜け出す前に博士――高座名嵐蛇巡風、本名、ノーベル異能賞受賞の広井淳子とした会話を思い出してみることにした。
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「願い事は可能な限り簡潔にまとめることだね」
「そ、それは……どういう……?」
「たとえば……自分を不老不死にしろ、ただし自分から死にたいと言った時は即座に死ねるように、しかしそれは言葉で
「……場合……?」
「ただ不老不死になるだけか、もしくは
「フレーム……問題……?」
「そうだな、コンピューター……いや、地球のことを何も知らない宇宙人に、犬、をどうやって説明する?」
「それ、は……ええと……ほ乳類で、四足歩行して……」
「ほ乳類、とは? それに、足とはなんだ? 歩行とは? そもそも、四、とは?」
「……なるほど……しかし……誰が、どこで、どういう判定と解釈をしてるんですかそれは?」
「ふふふ、それがわかったら苦労しないよ。異能研究というものは、大体こういうものなんだ。この場合は、君の中の異能因子が、となるんだろうが……いくら研究しようが、異能因子の中身はブラックボックスそのものだからな、考えるだけ無駄さ……まだ、ね。異能の神がすべての異能を司っている、と考えるぐらいしかないな」
「はあ……」
「……まあ……世界人類が平和で、楽しく、争いなく暮らせますように……なんて願った場合はどうなるか、興味は尽きないから是非、やってみてほしくはある」
「……それなら……人類が……消える……?」
「その可能性もあるだろう。あるいは……世界人類が物理的に、辛さや苦しさ、怒り、そういったネガティブな感情を感じ取れない脳に改造されてしまうかもな……ふふふふふ……ま、そんな調子だから、ね……願い事にはよくよく気をつけることだ、少年……」
「ちょ、ちょっと、まだ……」
「使い方は最初に言った通り。しかし、いちばん重要なのはイメージだ。君が思い描く夢――カオスを、強くイメージしろ。そのカオスに吹き荒れる嵐を頭の中に思い描くんだ。そしてそれを、シンプルで、力強い、短い言葉にまとめる。ふふ……君もオトコノコなら、考えたことがあるんじゃないか? かっこいい詠唱の一つ二つ……?」
「いや、そんな……そんな詠唱でなんで……」
「はは、要するに問題はイメージなんだ。君が、力があると思っている言葉で、力があると思う現実を定義する――詠唱する。そうしたら……」
「……そう、したら?」
「世界は君のものだ」
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……博士の話をまとめると、こうなる。
僕が今、イコライザーが全員、最初からいなかったことになる世界になれ、と願ったとしても……まあ殺すのはなんか寝覚めが悪そうだし、そんな感じで願ったとしても。
じゃあ、普段は警察だけどイコライザーには少し協力的でたまに彼らの違法行為を見なかったことにする警察の人、や、過去にイコライザーだったけどその暴力性に嫌気が差して袂を分かった人、なんかはどうなるのか? ……っていうか、今、まったく外部の人が判断したら、僕もイコライザーの一員ってことになるんじゃないのか? 言っちゃえば……イコライザーによって生み出された哀れな改造人間、ってことになるんだし、僕。
……っていう、曖昧さがある。
博士の言った法則に従うならこの場合……一度でもイコライザーに所属、もしくは接触したことのある人間がすべて消えるか……はたまた、そもそもイコライザーが生まれていない並行世界かなんかに僕が移動してしまう。
願わくは、試しに一回使ってみて、それで本番、といきたいところだけど……三回使えば自分が死ぬチカラの一回目を、テストで使ってしまいたくはない。せめて、あと二回ぐらい使えれば。
「…………むぅ……」
そんなわけでまた、ため息をついてしまう。この一週間、ずっと考えてる方向性が、正しいのかどうかがまずわからないのに……その方向に向け突っ走るしか、僕らに道はないんだ。
「…………ぉ~~~~~~~い……!」
と、僕が川縁でたそがれてると、間違えようのない大声。
顔を上げてみると、いつものサイクルジャージでチャリに乗り、こちらに爆走してくる一絵さんの姿……っていうか、河川敷のサイクリングロードって言っても制限速度はちゃんとあるんじゃないのかなんだそのスピードってうわ危なっっっっ!
ずぎゃぎゃぎゃぎゃッッ!
すさまじい音を立て、ジャックナイフで止まる一絵さん。もうもうと舞った土埃に、跳ね飛ばされた小石がぴしぴし、靴にあたるのがわかった。
今は午後四時ちょっと過ぎ。彼女が家から出たのは、朝の六時半。
――九時間半、自転車に乗り続け仕事してたってのに、力が有り余ってしょうがないみたいなその姿にもう、僕は、力なく笑うしかなかった。
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