人間にしては緑は緑でもただ見計らう
雛形 絢尊
第1話
緑といえば緑ではない。
どちらかといえば淀んだ色の葉が頭上にある。
追い込まれたかのように木々に囲われ、
しんと冷たい風が頬を漂う。
完全に迷ってしまった。帰る道などない。
方位磁針も役を得ず、ただその場を
行ったり来たりしている。
もう直ぐ夜が来る。夜が来る前に。
私はその時もうすでに後悔していた。
絶対迷子になる森に
なんて入るんじゃなかった。
もちろんスマートフォンも使えない。
電波すらも入ってない。
頭を抱えながらその場にしゃがみ込んだ。
こんな山になんて登るんじゃなかった。
気温も冷える。
なぜこんな事をしてしまったのか。
絶望感に満ちた私の脳内では、私の声すらも
反響しなくなってしまった。
幻覚を見ているのだろうか、
目の前に人がいる。
人であるのか、
白髪で汚い服を着用し、
まるで妖怪のような人物であった。
『おい迷い人』
その声が脳内に
叩きつけられるかの如く聞こえた。
私は驚きながら、はい、と声を出した。
『ここは何処なのか分かるか?』
私は正直に答える。
「いえ、分かりません」
意外にも彼はこう返した。
『あ、そうなの』
私はどうすることもできずに、
はい、とだけ漏らした。
『お前じゃないのか』
え?と困惑し、何も言えずに
その場に立ち尽くす。
『大量のゴミを捨てに来たのは
お前じゃないのか』
私は堂々と答える。「ええ」
『私、間違えた?』
私はそのまま、頷いた。
おそらく違う。
捨てた覚えはない。
しばらく沈黙が漂った。
『帰りたいか?』
私はうん、と頷いた。
んー、と声を出した後、彼はこういった。
『ちょっと待ってな、私も場所を知らぬ』
彼は一体何者なのか、と問おうとすると、
携帯(のようなもの)を片手に
彼は誰かに連絡する。
『あ、もしもし、』
神様も携帯で連絡とっているんだと困惑した。
『私です、Gの神様です』
G、Gとは一体なんだろう。
『今私の地区にいるんだがね、
帰り道を私も忘れてしまって』
神にも間違えはあるし、年も取るようだ。
『道を案内してくれ』
おう、ありがとうと彼は連絡を切る。
何か彼だけに見えてるものがあるのだろう。
『帰ろう』と彼はいった。
私は彼が手招くと同時にその跡をつける。
しばらく歩いていると彼はこういった。
『あんたは優しい人間だな』
私はそんなことないですよ、という。
『人間はいつからこうなっちまったんだ?』
と呟いた彼の言葉に疑問符をつける。
『ああ、いや、あんたみたいな
いい人間にはわからねえ話だ』
というのは?と聞き返した。
『ほら、平気で自然を汚したり、無くしたり、
人を傷つけたり、
殺したりする奴いるだろう?』
私は哲学的な話か何かだと考えた。
『まあよ、どの時代にもそう言う奴はいる。
どんな奴もいるけどよ、私はなあ、
なるべくいい人間が増えて欲しいんだよ』
私はふむふむと頷いた。
確かにそうは思う。
もうどれくらい歩いたのか、
いつの間にか山が開き、
見覚えのある駅が見えてきた。
その直後に彼の元に連絡が来た。
『ええ、今日早上がり?いいのか?
んじゃあ、これ終わったら上がります。
え、次は3922年ですか?
ちょっと遠すぎないか?
分かりました。次は山じゃないんですね、
まあ今日はゆっくり休みます』
彼は着信を切り、ふう、吐息をついた。
その直後に振り返り私の顔を見る。
『まだ2025年も捨てたもんじゃないな、
グッドラック、また、どっかで会おう!』
人間にしては緑は緑でもただ見計らう 雛形 絢尊 @kensonhina
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