第59話

幼い頃、俺は親父と母さんが仲良し夫婦だと信じて疑わなかった。外では、仲よさそうに手をつなぎ、微笑み合う。俺は、そんな二人が好きだった。

 けれど、それは本物じゃなかった。偽物の愛だった。二人は政略結婚だったらしい。けれど、母さんは親父を愛していた。でも、親父は母さんを愛していなかった。表だけ、仲睦まじい夫婦を演じていた。

 壊れた。不倫をする親父も、不倫を知っているのに親父に固執する母さんも、一瞬で嫌いになった。俺の心が真っ黒になり始めた時、二人は仕事で渡米した。帰って来るのは、俺が大学生になる時らしい。

 分からなくなった。嫌になった。本物の愛が分からなくて、俺が憧れていたものは壊れて。自暴自棄になった。バカみたいに素行不良に走った。

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