第58話

最初に違和感を覚えたのはいつだっただろうか。母さんは香水なんてつけない人なのに、親父のスーツから甘い匂いがしたから。親父が母さんに贈るわけではない綺麗な花束を持って家を出たから。酔っ払った親父の口から出た名前が、母さんのものじゃなかったから。

 違和感が大きくなっていくたび、見て見ぬフリをした。苦しくなった。

 けど、見てしまった。中学三年の時、塾から帰っていると、親父と知らない若い女が腕を組んで親しそうに話しながら、俺の目の前を通り過ぎていった。その瞬間、何かが壊れていく音がした。

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