第36話

『ブス。根暗、クソ真面目。キモイんだよ。うちの視界から、消えろ。』

 声も表情も、雰囲気も何もかも鮮明に覚えてる。校則違反のメイクをして、たくさんの女子を後ろに引き連れて。

 あたしは、いじめられっ子だった。中学生の時、三年間連続で同じクラスになっていた女子に、執拗にいじめられていた。誰も止めやしない。先生だって見て見ぬフリ。忙しいとーさんに簡単に頼れるわけなくて、頼りたくなくて。ずっと、何もないフリしてた。

 根暗、真面目、きもい。陰キャ。

 真っ黒の髪はおさげにして、赤い縁のメガネ。背は百六十五でそれなりにあったのに、いつも俯いていた。絵に描いたような、陰キャ。ストレス発散の的になるには、充分すぎた。

 高校生になったら、こんな格好やめようって決めた。

 ろくに勉強しないあいつらと、いつも勉強してるあたしが同じ高校に行けるわけない、って分かってた。けど、死ぬほど勉強して入った学校でも、同じことを繰り返されるのは絶対に嫌だった。

 それに、とーさんの泣き顔ももう見たくなかった。あたしが、いじめられていると分かった時、とーさんは綺麗に膝から崩れ落ちて、泣き喚いた。大きな体と声とポジティブな性格がいつもうるさかったとーさんが、あんなに泣いているのは初めて見た。大切な人が、自分のために泣くって、すごく辛いと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る