第22話

家族が崩壊したのは、いつだっただろうか。お母さんの心が壊れたと同時に、家族もバラバラになってしまった。

 お母さんは人気の漫画家、お父さんは普通のサラリーマン。ちょっと普通じゃない家庭に生まれたのがぼくだった。お母さんはメディアに出演しているわけじゃなかったから、顔バレもなくて、そこは安心だった。

 お母さんが描く漫画は青春群像で、小学生の呑気なぼくには少し難しかった。けれど、ファンはたくさんいて、お父さんはそれでも謙遜を忘れないお母さんに惹かれたという。ファンがいること、もちろんすごいことだ。お母さんの漫画がアニメ化、映画化を繰り返すうちに、お母さんの名前は大きくなっていく。そして、期待も批判も大きくなっていった。気付けば、お母さんは笑わなくなって、狂ったように漫画を描き続けていた。そして、自殺した。自分の商売道具同然で、いつもケアを欠かさなかった右手を切り落として、死んだ。

 お父さんも、その時心が死んだんだと思う。無理して働いて、倒れた。過労と心労、あと栄養不足。お父さんはここに入院して、ぼくはお父さんのお母さん、おばあちゃんの家に預けられた。おばあちゃんはやさしいし、何一つ不自由はない。

 けれど、ぼくの心の中心は中学二年生の時からぽっかり空いたままだ。

「お父さん。ぼく、言葉が苦手だ。誰かを傷付ける言葉は特に嫌いだ。過剰に反応して、周りの人を困らせてしまうぐらい、嫌いだ。」

 お父さんは目を閉じたままだ。最近はずっとこの顔ばかり見ている。

「お父さん、ぼく、お父さんの笑顔が見たいよ。ねえ、お父さん。」

 ぼくが呼びかけたら、いつも笑顔で返してくれていたのに。無視しないでよ。

「起きてよ、お父さん。」

 神様は意地悪だ。

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