第20話
「あっ・・・・・・。」
焼きそばパンは一つだけ残っていた。そのことに安心していると、誰かが取ってしまった。あの女の子、田中さんだ。声が漏れてしまうと、田中さんが振り向く。
ぼくはよく、暴言に対して過剰に反応してしまう。田中さんに対しても、そんなことをしてしまった。普段なら、そういうことがありすぎて、相手のことを忘れてしまう。けれど、田中さんのことはしっかりと覚えていた。やさしそうな人で、笑顔が素敵だと思った。名前を少し言いづらそうにしていることが引っかかっただけ。ただ、それだけ。噛んでしまったとか、多分、それぐらいなんだろうけど。忘れられなかった。
「あ、もしかして、これ、欲しいですか?」
それと、この丁寧な口調とやさしい笑顔だ。この表情を見ていると、心が洗われていくような気がする。ぼくをバカにしたりしなかったし、同い年なのに丁寧だ。だから、ぼくも自然と敬語になる。
「あ、だ、大丈夫ですよ。」
「そうですか?私、あのサンドイッチも気になっていたんで、もし欲しかったのなら、どうぞ。」
しっかりしていて、多分普段から敬語を使っているんだろうな、と思った。弟か妹がいそうだ。ぼくみたいな一人っ子特有の守られていたい、って感じがない気がする。
「じゃ、じゃあ。ありがとうございます。」
「いえいえ。じゃあ、失礼します。」
そう言って、田中さんは購買コーナーから離れていく。どうしてと思って、ケースの中を見たら、サンドイッチなんてなかった。
「・・・・・・なにか、言われるかも。」
そう考えた途端、怖くなった。
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