第10話
「・・・・・・馬鹿みたい。」
小さくそう呟いた。
「す、すみません!」
突然、そんな声が聞こえて、閉じていた目をゆっくりと開ける。すると、近くの窓から知らない男の人が顔を覗かせていた。ぼさっとしている黒髪に目元が少し隠れている。口角が上がっていることを確認してから、目元を緩めた。
「どうしたんですか?」
私の席は一番廊下に近くて、一番後ろ。いい席ではないと思う。色んな人の表情がよく見えてしまう、嫌な席。
私の顔を見てから、男の人は少し顔を強張らせた。
「だ、だって、今、バカ、って言いましたよね・・・・・・?」
まさか、聞かれているとは思わなかった。小さな声で呟いたはずだったのに。聞かれてしまっているのなら、否定しても無駄だ。じゃあ、なんて言えばいいんだろう。
「あなたに向けたわけじゃないんです。ただ、テストで点数が伸びなくて、自分を戒めるために言ったというか・・・・・・。すみません、嫌な思いをさせてしまったのなら。」
「い、戒める・・・・・・?」
男の人は強張らせていた顔を少し赤くして、「すみません!」と頭を下げた。
「いえ、大丈夫ですよ。私もあまりよくない言葉を大きな声で言ってしまっていたみたいですし。」
「い、いや、小さかったですよ!けど、ぼく、そういう言葉に過剰に反応しちゃうというか・・・・・・。」
彼はエヘヘと照れくさそうに笑ってから、もう一度頭を下げた。下にやって来る人だな、と思った。雰囲気から少し弱そうで、けど心は綺麗で優しそう。油断したら、調子に乗ってしまいそうだ。
「ぼく、
「え、あ、私は、は、・・・・・・田中優子です。二年B組です。」
「田中さん、ですね。改めて、失礼しました。・・・・・・じゃあ、失礼します。」
何度も頭を下げながら、男の人、大木さんが去っていく。
おおき、すぐる。聞いたことがない名前だから、一年生の時も多分、違うクラス。
変な人だ。なんとなく、弱虫って言葉が似合う人。
「日誌、書かなきゃ・・・・・・。」
日直のところにはバイトに向かったらしいクラスメイトの名前を書く。先生には彼女の代わりに預かった、なんて言っておけばいい。もし私が書いたことが先生に知られたら、クラスメイトは叱られる。それが原因で、イライラした気持ちを私に向けられるのは嫌だ。面倒。
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