第2話 静かな街
千里は足元を確かめながら、ゆっくりと街を歩いた。
どこか懐かしい雰囲気の商店街。昭和時代を思わせる古びた看板、細長い路地に並ぶ個人商店。だが、異様なのは人の気配がほとんどないことだった。
ポツポツと電灯がともる店内には、陳列された商品が並んでいる。駄菓子屋、古本屋、八百屋——どの店も営業しているように見えるのに、店主がいない。
「すみませ~ん、誰かいますか?」
千里は駄菓子屋の扉をそっと開けた。
チリン——
鈴の音が静寂に響く。
「いらっしゃいませ」
突然、店の奥から老人が現れた。
「……っ!」
思わず息をのむ。
そこに立っていたのは、まるで蝋人形のように肌が異様に滑らかな老人だった。白髪をきっちり撫でつけ、細い目を細めて微笑んでいる。
「おや、新しいお客さんかい?」
「え、あ……すみません、ちょっと迷い込んで……」
「迷った?」
老人は微笑みながら、ガラスケースの奥から色あせた飴玉を取り出し、千里の前に置いた。
「よかったら、おひとつどうぞ」
千里はその場の雰囲気に飲まれ、思わず手を伸ばしそうになった。しかし、ふと時計を見ると深夜一時を過ぎているはずなのに、針は午後五時を指していた。
(おかしい……時間が戻ってる?)
不安が胸をよぎる。
その時、店の外に人影が見えた。
細身のスーツを着た男が、じっとこちらを見ている。
千里と目が合うと、その男はゆっくりとした足取りで近づいてきた。
「お客さん、もう帰り道は分かりましたか?」
優しげな口調。しかし、その顔には笑顔が張り付いたままだった。
「……え?」
「夜になる前に帰らないと、いけませんよ」
男の言葉に、不安が増す。
ここは何なのか? そして、夜になると何が起こるのか?
千里は気づかないふりをしながら、静かに店の外へ出た。
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