第8話 夕食と勝負
「残り一個いただきます!」
夕食ももう最後にお皿に残ったソーセージで終わりだった。ニーナさんがフォークを刺そうとしたのを正面から見つめる。別に欲しかったわけじゃない、でもいたずら心で私のフォークが横からそれを掻っ攫った。
「え⁉」
ニーナさんが、驚いた声を出すとフォークを噛んで残念そうにしている。
ふとそういう顔を見るのも楽しくて、やってしまった。
「冗談です。私はいらないので、はいどうぞ」
私は、フォークに刺さったソーセージを差し出す。
「いただきま~す」
そのままニーナさんの口の中に連れていかれたウインナーに何も未練はないけれど、無くなってしまって残念な気持ちになった。もう少し遊んでいればもっと近くで眺められた。ニーナさんがもぐもぐ口を動かしながら、一口に入れたソーセージで頬を膨らませている。素直にあげるんじゃなかった。そんな口元を眺めながらそう思った。
ここ数日で、この人のお世話をするのが、好きなのだと気づいた。だって小さな事で彼女は幸せそうな顔をする。
「ねぇ、リリ」
食器を片付け終わった私を、ニーナさんが呼び止める。
「はい」
机の上に丸められた紙の筒が2本置かれている。
「なんですか、これ?」
「さっきウインナーを奪われたの納得いかなくて……」
「はい?」
「どっちが早く相手の急所をねらえるか勝負しよう。一応、安全なものを用意したからをナイフ代わりに」
「気にしてたんですか?でも、ニーナさんは私に勝てませんよ」
「それは、やってみてからわかることだから」
ニーナさんと床に向かい合わせで座る。目の前に紙筒が置かれている。
彼女が私に向ける視線が鋭くなる。彼女は本気でくる。それ以上の説明は何もない。
合図なんてない、自分の間合いで動くということだ。
先に動いたっていい。けれど――
ミシッ…
ニーナさんの座っていた床が軋んだ。
紙筒が私の喉に向かってくる。
彼女の動きを見切る――
かわす動きのまま、手に取った紙筒ごと彼女の懐に飛び込んだ。
私の紙筒は彼女の左胸に押し付けられてつぶれた。
かわしたはずの紙筒は、首の頸動脈の所で止まっていた。
「相打ちかな」
ニーナさんがそう言って手を下ろす。
「いいえ、私の負けです。ニーナさん、急所を避けることができたはずですよね」
紙筒とは逆の彼女の腕が私を抱き留めていた。
「飛び込んでくるから、受け留めちゃった」
彼女の胸に布越しでも触れている。不可抗力だけれど、この急所を選んだだのは自分で、さらには抱き留められている。じわじわと状況を把握して恥ずかしくなってくる。
「ニーナさん、離して」
何を思ったのかニーナさんは反対の腕も回して抱きしめた。
「じゃあ、さっきウインナー取ったの謝って」
耳元でそんなことを囁かれる。とても魅力的な状況になり得たはずなのに……囁かれたのは子供っぽい言葉だった。
「はい?ちゃんとあの後、食べさせてあげたじゃないですか・・・」
「私で遊んだから、謝らないと許せない」
「それは、ごめんなさい……」
「うん、よろしい」
ニーナさんの腕が緩まって解放される。心なしか顔が熱い…
謝らないのが正解だった…もう少し、ニーナさんの腕の中にいればよかったなんて思った。
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