第9話 大人の余裕と好奇心
ソファーに寝転んでリリは集中して動画を見ているようだ。
私はそんな彼女に近づいて、我が物顔でソファーを占領する足を押しやって座り直させる。
「ところで何見てるの?」
横に座るとスマホの画面をのぞき込む。
恋愛映画。それも佳境に入ったところなのか、私はちょうどよく恋仲らしき2人のキスシーンを覗いてしまった。
ああ、物語のいいところだ。見てる邪魔しちゃいけないと、静かにソファーから離れようとした。
「ニーナさん、座ってください。私が退けますから」
一旦動画を止めたリリは、そう言って私の袖を引いた。
「じゃあ、座らせてもらうけど私は気にしないで、そのままそこで見て」
私はソファーに深く座って、目を瞑ろうとした。
「ニーナさんも最初から見ませんか?まだ1話目だし、結構面白いですよ」
「私はいいから、そこまで見たなら最後まで見たらいいよ。面白そうならまた、今度私も見ようかな」
「そうですか?」
私はいいと言ったのに、私の隣にピタリと座って来て、わざわざ動画を一緒に見る体勢で私にも見やすいようにスマホを掲げようとする。
私は無言で彼女の手とスマホを掴んで下ろした。
私とリリの太ももの中間に降りたスマホを、勘違いでしまおうとするからもう一度その手を取って戻す。
「違う違う。続き再生して手疲れるでしょ。そこでいいから」
わざわざ見せたいと思うほどハマってるんだなと、少し微笑ましくて最後まで付き合ってあげることにする。
「やっぱり最初から見ますか?」
「いいや、きっと途中で寝ちゃうから」
リリの指が再生ボタンを押す。ソファーに座った時点から、私はすでに気だるさに目を閉じそうになっていた。
まだ1話目なのに、甘々の会話とキスのリップ音を目を閉じて聞いていた。こういうのにハマって、リリも乙女だななんてぼんやり考えていると、横にあるはずの気配を正面に感じて目を開ける。
「ん?もう終わった?」
そう聞いた質問は流されて
「キスってどんな感じなんでしょう?」
そんなことを真面目な顔で見下ろして聞いてくる。
「ん……?」
フッ、そういうの気になるお年頃かぁ。
眠気を押しやって、話を聞いてあげることにする。
(手っ取り早いからって隣に居る人間で想像するなんて、思春期真っただ中ですね~)
頭の中でそう言うとニヤケてしまう。
リリは片膝ソファーに乗せて、反対の右手を私の肩に乗せてきた。
ゆっくり近づいてくる彼女の顔に出るのは、緊張と、残りはたぶん好奇心なんだと思う。ありありとつばを飲み込む喉の動きが分かって微笑ましく思った。
おこちゃまの好奇心でどこまで頑張れるのかな?
肩に置かれた手に力が入っているし、汗をかいているのがわかる。
近づいた顔が止まって
「いいんですか?」
「ここから、どうするの?」
私は余裕の表情でリリの目を見つめる。どうせ、できないだろうと思ったから。
されたところで、私は得でしかないし。かわいい子とキスをするという経験も悪くない。
リリの左手が私の背もたれに置かれて、最後のもう一息という距離でもう一度リリは動きを止めた。彼女の瞳が緊張からか潤んでいる。
ちょっと可愛いななんて、思ってしまう。
唇は触れて、その瞬間緊張しすぎたのか彼女の喉が鳴った。
唇は震えていて、キスをされたということよりも、彼女が頑張って私にキスしたということに気持ちがくすぐられた。大人の余裕で受け止めるはずが、物足りなさを感じてしまう。
それでも、耐えて私からはなにもせず唇を離す彼女を待った。
よっぽど緊張したのか、離れた後もリリが少し震えていて、恥ずかしそうな顔をする。
可愛すぎる小動物がいる。そんなにキスがどんなものか知りたかったんだね。
彼女の頭をなでると、ピクリと彼女の肩が反応する。
抱きしめた。
ぎゅと包み込んで離さない。
「ニーナさん!?」
驚いたリリが声を上げる。
「反応がかわいい。このまま今日は抱き枕にしちゃおうかな」
そう言ってリリを抱きしめたままソファーに転がる。
2人の生活は始まったばかりだ。
彼女はだらしがない年上護衛、年下雇い主はそんな彼女を落としたい @mizu888
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます