第6話 コンロとビスケット




「私には一つどうしても許せないことがあります」


私は仁王立ちになって、そう言った。


「え?なに?」


「このコンロなんでひと口なんですか、作業台も狭いし、シンクも小さい……。」


「一人暮らしなら困らないし、私は料理しないから……そう言えば、あなたは料理するって言ってたわよね、それはごめんね。でも仕方がないから契約終了まではあきらめて」


契約終了と言った言葉に、限られた時間しかないことを自覚する。そしてこの関係は契約の上でしか成り立たないってことも。私はただの雇い主だと、彼女の言葉で思い出した。

やっと見つけた彼女と、親しくなる。友達でも仕事仲間でも何だっていい。難しいことじゃないはずだ。契約が終わったとしても何か繋がりを残せるように。

彼女を見つけられたことで終わった気になってた。


「ニーナさん、いったい何を食べて生きてるんですか?」


「別にレトルトとか温めればおいしいし。ほら、これもおいしいよ一つあげる」


そう言って、放って寄こされたものを見つめた。私がよく知っている銀の包み袋…よく見おぼえがある。未だにあの包みを大事に持っている。あの猫はかすれて消えかけてしまって、袋もボロボロだけれど。


「今も、食べてるんですね」俯いて小さくつぶやいた声は、彼女には聞こえない。

胃袋を捕んだら離れられなくなってくれるだろうか。私は、寄越された携帯栄養食を大事にしまい込む。


「こんなものばかり食べてたら栄養偏りますよ」


そう言いながら、あの時の彼女がいる嬉しさで顔はニヤケそうになった。


「サプリとかもいろいろあるから、大丈夫」


すぐに私の口角は下がって、眉間にしわが寄るのを堪えられなかった。10数年ニーナについて幻想を抱きすぎていたらしい。結構な大人になっている彼女に再開して、心ははやり過ぎていた。

彼女は意外と、いやだいぶ怠惰な人らしい。


それで私は彼女に幻滅したかというと、していないんだけれど……

あの銀の包み紙をまたこうして受け取って、幻滅よりも期待している。

なにをだろう……


「私が料理するんで、食べる分には食べてくれますか?」


「え?作ってくれるの?それは大歓迎」


ニーナさんがかすれて記憶からも消えそうになっていた猫のように笑って、どうしようもなく私はうれしくなった。

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