第4話 ニーナとリリの過去

ニーナさんには言っていないことがある。一つは、この契約で私が命を狙われる詳しい理由。

組織内抗争は本当のことだが、命を狙われたのは正確には、私がどちらかにつくことを敬遠されたからだ。自分で言うのもなんだけれど、専属契約で私の報酬がいいのも、それだけ腕を認められているからだ。

危険な種になると思われたのか、気を抜いた隙を狙って一方の頭首候補側が刺客を差し向けて、私のことを殺そうとしてきた。当たり前だけど返り討ちにした。そしてその刺客の死体を代わりにして、私は死んだと思わせてやり過ごした。


死んだことになっているのに組織に顔を出すわけにもいかないし、命を狙われてるんじゃどっち道、姿を隠しておかないといけない。

仕方がないから偽名を使って、組織外の仕事を探してこなしていたんだけど、結局見つかってしまった。

正直に言えば一人でいて自分だけの安全を確保するのには何の問題もない。自分の警護なんて雇う必要なんてなかった。


それなのに警護役を雇った理由。ずっと探していたものに出会ってしまった。もう諦めて南の町にでも行こうかと思っていた。

私がずっと東側にいて組織の仕事をこなしてきたのも彼女を探すためだった。彼女の情報が入ってくると思ったから。でも全然見つからなかった。

それなのに……こんなところで見つけることができるなんて。


組織に命を狙われたことに感謝すらした。

こんな目立たないところで、仕事を請け負っているなんて思わなかったから。


彼女は私の顔を見ても、何も思い出したりはしなかった。当たり前だ10数年前に一瞬話しかけられただけだ。助ける必要のない私を気まぐれで助けただけだったんだと思う。



私がずっと小さいころ、間者だった父が捕まって、ブラックリザードに私も人質として連れてこられた。父は人質の私なんて置いたまま逃げだして、残った私は当然殺されるって知った。

私を殺すのが彼女の役で、私を裏に連れて行くと銃を向けられた。ぶるぶると震える肩に彼女が触れて


「悪い、仕事なんだ。痛くても、我慢して動いちゃだめだよ」


そう私にだけ聞こえる声で囁くと、口に布切れを詰められる。殺されるんだと思った。彼女の言った言葉の意味なんて分からなかった。

銃声の大きな音がして、血しぶきが彼女に撥ねる。衝撃で私は倒れて、遅れて肩の辺がひどく熱くて痛みがやってくる。5~6歳の私は痛みより恐怖で動くことができなかったように思う。


「おいニーナ、また服を汚したのか。そんな近くで撃つからだろう。ちゃんと片付けて着替えて来いよ」


離れたところから声がする。


「ああ、つい近づきすぎちゃった。外したら弾が無駄になるだろう。ちょっと死体片しに行って、それから着替えてくるよ」


そう誰かと話している

近づいてくる気配がして――――





「もう少しの間、動くなよ。ああ、気絶しちゃったか、ちょうど良かった」


私には、その言葉はもうほとんど聞こえていなかった。




次に起きた時は、知らない施設で肩は治療されていた。起きると彼女の置き土産として小さな包みを渡された。それは栄養補助食品のビスケットで、銀の包みにマジックで描いた猫っぽい動物の口がニコリとアールを描いていた。

そこに彼女はいなかった……


一思いに殺してくれればよかったのにと思ったこともある。けれど施設にいて命の危険のない場所で知らないことを知って、楽しいことを知ると、なんでも乗り越えられた。


私は生きている。

10年経って、いや10年の間に、気づいたら私は自分の生きる理由を彼女に求めるようになっていた。

私を助けて、誰なのかもわからない。

会いたいと思った。ただそれだけが私がこれからどうするか、次の行動を決断する理由だった。

そうしないと生きる意味なんて失ってしまう気がした。父に捨てられた時点で、私は不必要な存在になったから。


皮肉なことだが、殺されそうになった組織で私はメキメキと腕を上げて正式に専属として仕事をこなした。もちろん彼女を探すためにこの組織に入った。施設を出て2~3年で、私は腕を上げた。けれど組織の隅まで探しても彼女はいなかった。いつか何か情報が入ると思っていたから組織に居続けた。


その後は、説明した通り。2人の頭首候補の抗争がきっかけで、私はニーナさんを見つけたのだ。

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