第3話




 今いる土地から父親の関係で都内に住んだことがある。

 小学六年の半ばくらいという中途半端な時期だったと思う。

 その時の私はいつも遊ぶ凛ちゃんと離れるのが嫌で私だけでもここに残ると初めて父親と喧嘩した。

 私の世界、私たちだけの世界を壊す人は例え自分の父親でもそれが許せなかった。

 物心が付く前から私と凛ちゃんは親同士の交流により一緒に居ており、私は私と認識した時には凛ちゃんと一緒じゃないと生きていけない身体になっていた。

 支払い能力のない内にここに残って何をするつもりだと父親にはこっ酷く言われて現実は自分の希望通りに物事を進めるにはそれなりの努力が必要だと知った。

 急な転勤な事もあり都内に行くと決まって一週間も経たずに田舎から飛び出してしまった。

 凛ちゃんとこれといった挨拶が出来ておらず機内で寂しくて泣いた記憶がある。

 それからは都内の小学校を少し行って誰とも仲良くならずに卒業し、中学生になった。

 父親のあの時の言葉を胸に深く刻み、私は今の自分に何が出来るか模索して見つけたのがモデルと投資だった。

 元々顔がそれなりに整っていた事もあり事務所のスカウトでモデル業をすることには成功した。

 中学一年の間は学校とモデルの仕事の時間以外全て投資の勉強に充てて、二年生になる頃には投資に使える資金も増え本格的に投資をしていた。

 投資の成果が本格的に出始めたのは高校生になってからだった。

 高校一年の冬には銀行の口座には高校生が持つ金額では無くなっていた。

 そこから減る事もなく増えていき高校二年の春頃には昔住んでいた土地のマンションを一括で買えるくらいになっており、これなら交渉の土台に立てるのではと父親に今後の事について相談した。

 結果は成功だった。

 今の自分よりも娘が大金を持っていることに多少驚きを見せたがすぐいつもの仏頂面に戻り、好きにしろとだけ言って部屋を出ていってしまった。

 了承を得た私は事務所の退所にマンションの契約と凛ちゃんのいる学校の特定、学校の手続きを出来るだけ早く済ませて一分一秒でもあの子の居る場所に戻りたかった。

 あの子と同じ景色をもう一度見たかったしあの子とお話ししたかった。

 そして念願の生まれ育った地に今年の夏に戻って来れた。

 マンションに通販で買った家具がどんどん入ってくるのを見ながら私だけのお家が完成するのを眺めていた。


「やっとだ…やっと戻ってこれたんだ」


 長かった。

 私の灰色の四年間はあまりにも生きた心地がしなかった。

 何をしても何を食べても何も感じることの出来ない身体がやっと正常に動き始めた気がした。

 これでやっとまた会える。

 私だけの世界、私たちの世界がまた回りだすんだ。


「凛ちゃん…もう少しだよ」


 だから待っててね。

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