第2話
そんなある日、いつも通りに朝が来て、支度をして、バイト先に向かった。今日も普遍的な生活を繰り返す。そこで同期のバイトと他愛もない会話を交わす。しかし、同期の一人である優子さんの雰囲気がいつもと違った
“なんか様子が…”
とぼんやりと異変を感じた。
まもなくして、更衣室のドアを叩く音が聞こえる。いつも更衣室のドアを叩くのは祐希くんだ。
“せんせー、なにしてるのー”
聞き慣れた少し上ずった子ども特有の声で呼ばれる。
“着替えているだけだよー”
と俺は答える
更衣室は1室しかなく、男女がいる場合の着替えは中の個室のカーテンを閉めてする。とは言えど、更衣室自体が狭いので、ドアを叩かれるだけで更衣室にいる全員が気づく。
“もう少ししたら開けるよー”
優子さんはいつもの声のトーンで返事した。しかし顔をみるといつも笑顔で返事する優子さんの笑顔が少し引きつってた。
“はーいお待たせー。なにして遊ぶ?”
着替え終わった優子さんと俺は更衣室を出て祐希くんに優子さんはそう聞いた。しかし、祐希くんは敏感な子
“あれ、優子せんせー、なんか変?”
そう、優子さんの機微な変化に気づいたのだ。
指摘され、タジタジしていた優子さん。俺は
“ちょっとー、女性に変って言うのは失礼だよー”
と話を逸らすようにフォローした。祐希くんはすぐに
“えーそうなの?なんで女の子に変って言うのだめなのー”
俺の発言に食いついた祐希くんは興味の対象をすぐさまに切り替えた。
“それじゃ、聡の女性の扱い方講座と恋愛講座を遊びながらやろう”
と俺は俺の発言により興味持つように好奇心旺盛な祐希くんがき食いつきそうな話題を出した。
“えー、なにそれ聡せんせーちゃんと説明できるの?面白そうだけど”
案の定食いついてきたので、俺は祐希くんを連れて遊び部屋に連れてった。優子さんはなにか言いたげだったが、まもなくして現場責任者に呼ばれ事務室に姿を消した。
“聡せんせーは誰か好きな人いるのー”
遊び場についた俺にすぐさま聞いた
“そうだなー昔いたけど、その時の感情は今も覚えているよ”
俺は昔を懐かしんだが、瞬間どす黒い思いが体を走った。俺はこのどす黒い思い出の正体はすぐ理解できたが、さすがに理性がその気持ちをせき止め、何事もなかったかのように振る舞う。
“へーそうなんだー、でも俺、そんな気持ち分からないや”
少し残念そうに喋る祐希くんを見て俺は
“大丈夫、結構突然に来るから、もしかしたら学校でそれが分かるかもしれないよ”
“なにそれー学校で教えてくれるの?”
子どもの柔軟な発想にはいつも驚かされる。
“あー違う違う、先生が教えるんじゃなくて、学校で生活してたら自然とその感情ができるよ、まあこれについては人によってタイミング違うけど”
俺は自分が体験した思い出を元に語った
“じゃせんせーはいつその感情を持ったの?”
と祐希くんは目をらんらんに輝かせ、いかにも興味津々だ。
“そうだなー”
答えようとした瞬間またどす黒い衝動がわいてきた。さっきのと同じだ。今度は吐きそうなほど体を弄った。
“せんせ?”
祐希くんは突然間ができて不思議そうにこちらを見た。彼の顔を見て顔をぶつけそうになるほどどす黒い衝動が喉につかかってる。
(もうぶつけてしまおうか、どんな反応するのだろう)
と得も言えない欲望が頭を包む。そう、もしかしたら俺は望んでいるのかもしれない。破滅を。全ては朝に来る絶望のせいだ。あれのせいで俺は蝕まれ、健全で文化的な生活などできない。(なぜ俺がこんな目に遭ってんのに、このガキはのうのうと暮らせるんだ。闇に咽まれ、自分の正体さえ嫌疑の目でみる。このガキは徐々に破滅へ向かう恐怖など露知らずにいるのだろう。憎い。)
憎しみを込めた舌が次の音を発しようとした瞬間、現場責任者が祐希くんを呼んだ。祐希くんは
“あ、平さんだ。どうしたのー”
話に飽きたのかすぐさま彼の元へ駆け寄った。
俺は行き場のない言葉を飲み込んだ。そして、トイレにいって嘔吐した。
その後、現場責任者のところに行って体調不良を伝え、早退することにした。
帰るために更衣室で支度していると優子さんが入ってきた。俺が荷物まとめてるところを見て彼女は
“あら、聡さん、もうお帰りですか?”
その時の彼女の表情は来た時のような異変はなくいつも通りに優しい表情でお淑やかな声で聞いてきた。
“ええ、ちょっと吐いてしまいまして。”
すると彼女は驚いた顔で心配そうな声で
“それは帰って休んだほうがいいですね”
しかし、俺はそんな彼女を見て、心に影を落として消え入りそうな声で
“あんたもな”
と言った。彼女は聞き取れなかったようで
“うん?なにか言いましたか?”
俺はすぐ気づき、
“いや、なんでもないです。”
と言い残し更衣室を出ようとした。その時
“あの、もしよろしければ、家まで付き添いましょうか?”
彼女がそう言った。俺は彼女がなぜそう言うのか分からず、思わず
“なんで?”
と聞いた。そして彼女はそれに続けて
“だって顔色が悪いですよ。真っ青で、無事に家に辿りつけるか心配です!”
彼女はそうはっきりと言い、俺は思わず圧された。しかし、いくら同期と言っても所詮はバイト仲間だし、そんなの悪いと思い、断った。
だが、彼女は妙に張り切り、断ったはずなのに現場責任者のところへ行き、俺の面倒を見るといい、早退する旨を伝えた。現場責任者は特に気にする事なく許可した。
そして、彼女は更衣室に戻ってきて
“さあ帰りますよ!”
と堂々と俺の方に向かって言った。
彼女が身支度している間に俺はバツが悪そうに
“いや、吐いただけで別に風邪でもなんでもないですし、付き添いなんて悪いですよ”
と言ったが、彼女は
“大丈夫!私、中学のとき、保健委員会だったから!”
と返事になってない返事をし、俺は困り、何とか諦めてもらおうとしようと言葉を考えている間に彼女は支度が完了し、俺の手を引っ張って施設の外に出た。
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