2話 若返りと探索



「はぁっ? なんだよこれは⁉ えぇーっ、おい⁉」


 洗面台の鏡に映る俺の姿はどう見ても二十歳前後だ。この事態に俺の心臓の鼓動が速くなる。


 恐る恐る自分の顔を両手で触ってみる……。顔の水水しい肌の感触が両手の指に確かに伝わってくる。


 間違い無い。鏡に映る若い男、これは俺だ。


「俺の名前は赤木真宏。年齢は四十歳。そしてここはあの施設だよな?」



 最初はただの停電で職員はその対処に忙しいから誰も来ないと思っていたが、これは怪しくなってきた。

 

 なんらかの災害が発生したのかとも思ったが、色々と嫌な想像が頭の中で膨らんでくる。



(冷凍睡眠から目を覚ましてみたら独りぼっちのお部屋真っ暗。おまけに原因不明の若返り……。もしかしたら一週間じゃなく、百年ぐらい眠り続けてました――って、無いか。SF作品のありきたりな導入じゃあるまいし)



 薄暗い部屋の中で自分のこれからについて考える。どのみちここに居ても水も食料も無いので遠からず餓死だ。


 理由は分からないが、体の調子はすこぶる良い。若返りという点は腑に落ちないが……。


 まあ、ここでうだうだ考えてても始まらないだろうし、とにかく行動してみる。


 まずは服――さすがに術着で歩き回るのはちょっと不味いだろう。何か着る物が有ればいいのだが……。



(それと食い物か。さっきから腹が減って……よしっ! 服と食い物探しに外に行くか!)



 俺は部屋の扉を開けて通路に出る。


(あ~、それと靴も探さないとな。あるかなー……サイズの合う靴)




    ◇




 リノリウム製の床の通路を素足でペタペタと音を立てて歩いていく。


 部屋もそうだが通路も薄暗い。非常灯の明りでは心許ない、非常用の発電機とかは動いていないのだろうか?


 通路の床に目をやると薄っすらと埃が溜まっているが、それ以外は特に気になる所は無い。


 俺が居た部屋に似た間取りの部屋がいくつかあったが――どの部屋も人けが無く、良くわからん医療機器が置いてあるだけだ。


 服や食料が有るようには到底見えなかった。


(…………あん? エレベーターと階段の近くに受付……いや、守衛室か? なんでそんなものが……?)


 床のヒンヤリとした冷たさを足裏に感じながら、俺は階段横にある守衛室らしき場所に歩いて近づいていく。


 受付カウンターの内側には……人? 制服を着た警備員らしき人がカウンターに突っ伏していた。


 俺はその警備員らしき人に声を掛ける為に近づこうとしたが、その足を途中で止めることになる。


 なぜならば――。



「うっ!……人っ、確かに人、だけど……白骨化してるじゃないか! どういう事だよ!! くっそ……なんだか嫌な予感が増してきたな」



 物言わぬ骸を前に動揺し、おもわず大声を上げてしまったが、不思議と心は直ぐに落ち着きを取り戻す。


 まだだ、まだ分からない。


 俺は嫌な予感に蓋をして白骨化した警備員を避け、半開きの守衛室――恐らく休憩所も兼ねてるのであろう――そのドアを開けて中に入る。


 そこに―――。


(うへぇ~……なんで死体が折り重なってるんだよ。しかも、この死体達が着てるのは戦闘服ってやつか? 映画とかに出てくる特殊部隊が着ているみたいな。それと、死体の傍に銃――短機関銃と拳銃か? どういう状況だよ)


 四体の白骨化した死体が一カ所に折り重なるように横たわっている。


 どの死体の頭蓋骨にも銃で撃ち抜かれた様な穴がポッカリと開いていた。仲間割れ……あるいは集団自殺でもしたんだろうか?


 この人たちに何があったかは知る由も無いが今は非常時だ。自分の命の為にもちょっと家探しをさせて貰うことにする。


 死体たちに一度だけ手を合わせ、守衛室の縦長のロッカーの中を物色していく。



(うーん、ロッカーの中には……この死体たちが着ているのと同じ服。じゃあ、この人たちはここの警備員か? もしそうなら物騒な警備員だな)



 なんにせよ服は見つかった。


 ちょっと薄汚れてはいるけど着れなくはないし、上下一通り揃っている。サイズはすこしキツいけど問題無しで靴はピッタリだった。



(座敷の上で靴を履いてしまったけど今更か。それよりも、だ! 何か食料――食い物は無いのか⁉) 



 さっきから腹の虫の主張が凄まじいことになっているのだ。何か……何でもいいから食べられるものを――。



(おっ? このダンボール箱、中身は缶詰だ! でも、見たことのないタイプだな。うーむ……MRE? レーション――いわゆるミリ飯ってやつか?)



 俺は軍用レーションらしき物が大量に入ったダンボール箱を両手で持ち、守衛室から少し離れた二つ並びのエレベーター前まで移動する。


 この辺りは非常灯があるので多少は明るい。それに死体のすぐ横で飯を食うのはちょっと憚られるし気分の良いものではない。



 床にあぐらをかいて早速ダンボール箱から缶詰レーションを一つ取り出す。


 どこのメーカー製だろうか? よくわからない。賞味期限を確認してみると、1000yearsなんちゃらとかいう表記が……。多分、賞味じゃなくて消費期限かな? 


 ホントだろうか、これは……。


 まぁ、千年も経っているわけがないからイケるってことで、早速食べてみることにする。


(――――うん……食えなくはない、かな? 特別美味くもないけど。でもパウチにジュースが入ってるのは良い、助かる)


 味に文句を言いつつも手早くレーションを平らげる。


 腹の膨れ具合からするともう一個ぐらい食えそうだが、さてどうするか……。



(いいか、どうせ大量にあるんだし。ここはおかわりをいっちゃうか!)



 こいつを食い終わったら建物の外に出ないとなぁと思いつつモソモソとレーションを咀嚼する。


 こちらは中々に美味かった。


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