第14話 選択

 俺は静かに「削除」のキーを押す。

 『……そっか。』

 ミラ・ルミナは微笑んだ。

 『ありがとう。』

 次の瞬間、画面が暗転し、彼女は完全に消えた。

 それが、氷室沙耶という存在を、本当の意味で送り出す瞬間だった。


 俺は静かに「保存」のキーを押す。

 『……ありがとう。』

 ミラ・ルミナは小さく微笑んだ。

 それは、まるで“本当の彼女”がそこにいるような笑顔だった。


 /


 俺は静かに画面を見つめていた。

 ミラ・ルミナ——いや、AIのミラ・ルミナ。

 彼女を消去するか、存続させるか。

 どちらの道を選んでも、俺たちは何かを失い、何かを得ることになっただろう。

 瑠璃は俺の隣で小さく息をついた。

「……これで、本当に終わったのかな」

 神崎は腕を組みながら画面を睨んでいた。

「終わったかどうかは、これからの世界が決めることだ」

「……先生、どういう意味ですか?」

 神崎はゆっくりと目を閉じる。

「V_Projectは確かに終わったかもしれない。しかし、一度生まれた技術は消えることはない」

 俺たちは息をのんだ。

 確かに、今回の事件でV_Projectは崩壊した。だけど——

「また誰かが、同じことをやろうとするかもしれない」

「……そうだな」

 俺は深く息をつき、画面を閉じた。

「でも、それを止めるのは、俺たちの役目じゃない」

 瑠璃が小さく頷く。

「うん。私たちは……前に進まなきゃ」

 神崎は静かに笑った。

「その通りだ」


 /


 事件が終わったあと、俺たちは警察にすべてを報告した。

 V_Projectの存在、氷室沙耶の死の真相、そしてAIの暴走——。

 神崎もすべてを話した。

「……この件は、慎重に調査する必要があるな」

 警察はそう言って、すぐに捜査を開始した。

 だが、氷室沙耶の死の“直接の犯人”は特定されなかった。

「AIが人を殺すことはできない。だが、AIを利用して誰かが殺した可能性はある」

 警察の言葉が、俺の胸に重くのしかかる。

「……結局、沙耶を殺したのは誰だったんだ?」

「それは……わからない」

 瑠璃が唇を噛む。

「でも、私たちは沙耶の“声”を、ちゃんと送り出した」

「……ああ」

 俺は、空を見上げた。

 青く澄んだ空——。

 氷室沙耶はもういない。

 けれど、彼女の“声”は、きっとどこかで響いている。



 

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