part Aki 2/14 pm 10:34
「ただいま」
瞳が バイトから帰ってくる。
近所の居酒屋さんバイト。
「お疲れ様」
「……ん」
玄関のドア開けにいって そのままキス。例によって 瞳の方が 圧倒的に背が高いから 屈んでくれてハグされながらのキス。まぁ もう慣れっこだけどね。同棲始めて 5ヶ月目。お互い帰って来た時は チャイムを押して 鍵開けてもらって 玄関でキス。ほぼ毎日ある ちょっぴり幸せな時間。
イベントに右往左往するとか そーゆーんじゃ無いんだよね。……例え 今日がバレンタインデーだったとしても。
今年のバレンタインは 悲惨だった。
瞳が「手作りチョコ作るし教えて欲しい」ってゆーから 色々レシピとか 材料とか用意して一緒に作り始めたんだけど……。たぶん 瞳は 細かい作業向いてない。……いや。裁縫とか あんなに繊細な作業できるんだから お菓子作りに向いてないってゆーべきか……。炒飯とか モヤシ炒めとか そーゆー系が向いてる感じ……あと お好み焼。
とにかく 瞳がムチャクチャしたせいで ウチの冷蔵庫には とりあえず成形だけしたチョコレートの塊が けっこうな量入ってる。アレ食べなきゃなんないから お互いに渡すバレンタインチョコも無し。
「身体 冷えたし お風呂行ってくるね~。亜樹は もう お風呂済ませた?」
「うん。ボクは もう行った。ゆっくり 暖まってきてね」
「ありがと。寒いし 寝室の設定温度 上げといても いい?」
首にグルグル巻きにした暗紅色のマフラーとライトグレーのコートを奥の部屋に仕舞いに行きながら 瞳が尋ねてくる。
「……わかった。上げといて」
ちょっと考えてから 瞳に了解を伝える。
チョコレートの件で ケンカしたけど 瞳も仲直りしたいみたい。そこは ボクも同じ気持ち。ただ 今年のバレンタインを素直に喜べない理由が2つほどある。
まずは 小学校の頃から ずっと手作りチョコを作ってきてたのに せっかく 恋人と暮らし始めた今年 瞳に手作りチョコを贈れなかったってゆー 淋しい気持ちが1つ。
そして もう1つのモヤモヤは 玄関に置かれた大きな紙袋。
中身は 全部チョコレート。まぁ 一部クッキーも混ざってるみたいだけど。瞳が 学校やバイト先で友達や先輩からもらったってゆー膨大な量のチョコの山。奥の部屋から戻ってきた瞳が 綺麗な紙包みをテーブルに置く。
「また チョコもらっちゃった。これは バイト先の社員のお姉さんから」
そう言い残して 瞳は 脱衣場の方へと去っていく。机の上の包み紙は海外ブランドの有名店。大きさ見ても そこそこ大きいサイズ……どー見ても 本命だろ? コレ。……いや。瞳が バレンタインに 女の子達から大量のチョコもらうってハナシは 付き合い始めた頃から 聞いては いた。聞いては いたけど いざ 実物を見ると 現実の迫力に圧倒されるってゆーか。
玄関の袋の中には 全部で23個の包み紙。有名店の包み紙もある。いかにも本命ってのが3個。ボクなら こんなサイズの友チョコにはしないってゆーサイズ感のヤツが4個。これでも 高校時代に比べれば かなり減ったらしい……去年 高3の時は 手提げ袋 2つ 40個超えだったらしいから。
ボクは 自分のこと そんなに嫉妬深い方じゃないって思ってたけど 流石にこの量だと心配になる……。モテる美人の彼女がいるってゆーのは なかなかにストレス。瞳の方は ああ見えて嫉妬心強いから ボクが 他の女の子に浮気するんじゃないかって けっこう本気で心配してる。
まぁ ボクは 出会って以来 ずっと瞳 一筋だし 瞳も ボクのこと ずっと一途に想ってくれてる。心配する必要なんて無いのかも しれないけど。ただまぁ お互い信頼し合ってても
そんなことを考えて 玄関の紙袋とみっちりチョコレートの詰まった 我が家の冷蔵庫を ゲンナリした気持ちで 眺めるのだった。
「ふ~ぅ。いいお湯だった。暖まった~」
ドライヤー終わらせた瞳が リビングに戻ってくる。出逢った頃と あんまり変わらないショートヘア。いつもは自然乾燥だけど 今日はドライヤー使ったみたい。……まぁ なんとなく 理由は 察しが付くけど。
ピンク地に白い格子柄の長袖パジャマ。外に出掛ける時は ほとんど着ないけど 家ではピンクとか淡いイエローとかの女の子っぽいカワイイ色の服着てることが多い。因みに 冷え症のボクは瞳のより分厚いモコモコパジャマを使ってる。それでも冷えるけど。色はパステルのアクアブルーに白のハート柄。
「はーっ。おいし~」
瞳は お風呂上がりのお決まり 冷たい牛乳。どんな寒い日でも コップ1杯 一気飲み。そして 飲み切ったタイミングで ボクの方をチラッと見た。……まぁ なんとなく 理由は 察しが付いてるんだけどさ。
「瞳 そろそろ 寝よっか?」
ボクの方から 声を掛ける。瞳は 少し はにかんだ感じで小さく頷く。同棲してると 今日みたいな日は ちょっと緊張する。「寝よっか?」の意味が 普段と微妙に違うから。まぁ 男のボクから 声掛けるように 心懸けてるけど。……でも ちょっと恥ずかしい。
歯磨きを済ませて 冷え症のボクがパジャマ脱いでも大丈夫なように しっかり暖められた寝室へ。
「あのさ 亜樹。ちょっと 目 瞑っててくれる?」
「えっ? あっ うん」
一応 ちょっと驚いた風を装いつつ 目を瞑る。
ある意味 予想通りの展開。
瞳が 何かを準備する 微かな物音。
「もう いいよ~っ」
目を開けると 赤いリボンを 頭に結んだ 瞳の笑顔。
「チョコレートは 贈れなかったから あたしが プレゼント。食べてくれる?」
「うん。とっても 美味しそ……」
そう言いながら 瞳にキス。初めて コレやられた高校生の時は メチャメチャ動揺したけど ボクも 19歳。瞳とも 何度も夜を過ごした。もう 大丈夫。大人っぽく リードするつもりでキスを重ねる。
「ねぇ 亜樹…。今日は 亜樹が 脱がして……」
瞳の甘えたような声。瞳に導かれるように ピンク色の可愛いパジャマのボタンを外していく……ボタンを外すに連れて ボクの頭に血が上ってくるのがわかる。
ピンク色のパジャマの下から
ダークチョコレート色の生地に
リボンっぽい深紅のレースが たっぷり使われた
めっちゃ大人っぽいデザインのバレンタインランジェリー。
「
瞳は 右手の小指を赤い舌先でペロリと舐め 流し目をボクに送って 妖しい笑み。
ダメだ……鼻血出そう。
今週 チョコ食べ過ぎなんだよ……。
2人でチョコレートを 金星タヌキ @VenusRacoon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます