第12話 皆で翔の祠訪問

「翔や健斗もいろいろオカルトがありそうだけど、お互いもっと知る必要がありそうね。翔は祠に通ってるって言ってたけど私も行っていい」

「いいけど結構遠いよ」

「体力なら自信があるわ」

「皆で行きましょうよ。ピクニックも兼ねて」

「ピクニックは無理だと思う。ちゃんとした登山の恰好でならいいけど。シューズ、雨具、水、非常食は最低準備しないと。それから帽子と手袋。ちょっとした崖があるから」

「そんなに険しいところなの」

「まあ標高は高くないけど道が荒れてるんだ」

「問題は巧と健斗ね。無理しないでいいけど大丈夫」

「僕はそういうのすごく興味があるから是非行きたいな。最低限体は鍛えているつもりだけど」

「健斗が行くなら僕も行く」

 登山は翌週の日曜日、荒神公園に午前6時に集合することになった。

 5人は時間通りに公園に集まった。アンジェラは大きな荷物を背負っている。

「地磁気と重力の測定装置を持ってきたの。8キロもあるの。嫌になるわ。この辺は中央構造線と糸魚川―静岡構造線が交わる特別な場所なの。翔の言う祠は地磁気や重力が特殊な状態なのかも知れないの」

 天気予報では一日中晴だった。しばらく小道を歩き、山に入って行く。道はどんどん細くなり踏み跡に変って行く。

「こんな道どうして入る気になったの」

「何か導かれたっていうか。最初来たときはもっと荒れてたんだ。これでも整備したんだ。でも間違いなく昔から人が歩いていた道だと思う」

 急な岩の斜面が現れた。ロープが垂れている。

「みんなが来るから昨日ロープを掛けたんだ」

「今まではローブなしで登ってたの」

「うん」

「先ず翔から登ってみて。それから健斗、恵、巧の順でいきましょ」

 巧が登り始める。ほとんどローブに頼らず軽く上まで登ってしまう。健斗が見様見真似で後に続いたが、直ぐにロープをつかむ。

「あんなの無理。翔の手には吸盤でもあるの」

「クライミングの上級者は岩の小さな突起や窪みに指をかけることができるのよ。指の力と手の使い方ね。無理しないで。でもロープに体重をかけるのは最小限にして。崖から体を離さないようにして」

 健斗はアンジェラの指示を聞きながら何とか上まで辿りついた。恵が続く。

「やっぱりローブに頼らないのは無理ね。翔はどんな手をしているの」

「手だけじゃなくて体重移動も大事なの。手がひっかかる方向に重心を動かすようにするのよ」

 問題は巧だった。健斗に比べて手の力や体幹が弱い。アンジェラから「次は右足を上の窪みに置いて」「左足をもっと左にずらして。手には体重をかけない、ホールドするだけ」と細かい指示を受けてやっと上までたどり着いた。アンジェラはさすがで重い荷物を背負いながらも、余裕で登った。2時間ほど尾根道を歩く。尾根道ではあるが、アップダウンが大きい。30分ごとに休憩をとったが巧は大分バテている。一日中晴のはずだったが急に空が暗くなってきた。

「山の斜面に風が当たって積乱雲ができているんだ。にわか雨になりそうだな」

 突然、雷鳴が聞こえた。結構近い。

「通り雨が来そうね。雨具を着て避難しましょ。荷物だけ置いて大きな木のそばから離れて。4m以上が安全な距離よ」

程なく大粒の雨が降ってきた。突然、下に荷物を置いていた木に稲妻が走った。バリバリとものすごい音と光が走り、木の天辺と幹の下から炎が上がった。一同は身を屈めて嵐がとおり過ぎるのを待った。20分後、雨は止み、今までの嵐が嘘のように空は明るくなってきた。アンジェラが荷物を調べて大声を上げた。

「何これ。測定器が稲妻で完全に壊れてる。皆の荷物は大丈夫?」

 他のメンバーの荷物は無事だった。再び歩き始めると道は平担な林に入った。大木があちこちに生えている。

「こんな場所があったんだ。なんだか不思議だな。普通ならこんな平らな場所は杉の植林地になっているはずだ」

 さらに進むと、急に開けた場所に出た。十メートル四方の正方形の空間だった。白い砂利が敷き詰められていた。真ん中に石造りの小さな祠があった。祠は1mくらいの正方形の平らな岩の上にあった。四方に榊の古木が規則正しく立っている。

「始めて来たときはこの辺はツルに覆われていたんだ」

「クズだね。凄い繁殖力だからね。この敷地は小さな玉砂利と砕いた石灰岩がかなり深く敷き詰められているみたいだ。さっきの大雨がここだけすっかり乾いている。水が下に浸透したんだ」

「防草砂利ね。石灰石が溶けて地盤沈下したのね。昔は祠が乗ってる石と敷地面が同じ高さだったんでしょうね。ずいぶん大昔の工事みたいね」

「この辺は禁足地だったんだろうな」

「禁足地?」

「その地にまつわる歴史や宗教上の理由で、絶対に立ち入ってはいけないとされる場所のこと」

「法律でもあるの」

「ないけどその土地の人が古くからの伝承を受け継いで入らないようにしている場合が多いんだ。もしかしたら、ここは神社なんかの私有地なのかも知れない。そもそもここに来るだけで大変だけどね。翔はここまでの道がすごく荒れてたって言ってたけど数十年前くらいまでは管理している人がいたんじゃないかな」

「たぶん昔からあった山道だと思うよ」

「高齢化、後継者なしで管理人が途絶えちゃったとかね」

「不慮の病気や事故で伝承が途絶えたのかもしれない」

「実は夢の中におじいさんが出てくるんだ」

「で、翔が後取りに選ばれたわけね。翔はここにきて何をしてるの」

「周りを掃除して祠にお参りして座禅して帰る」

「私たちもお参りして座禅してみない。翔はどんなお参りの仕方をしてるの。神道には儀式があるんでしょ」

「ただ、頭を下げてから立ったまま手を合わせて祈るだけだよ」

「ここは神道の神様みたいだから神道の参拝をしてみようか」

「それいいわ。みんなでやりましょ」

「まずお賽銭を入れて、鈴が有れば鳴らすんだけど、それは省略だな。それから2回深いお辞儀をするんだ。背中を伸ばして腰だけ曲げる。その後、右手を少し下にずらして手を合わせる」

 健斗がやってみせる。

「そして2回拍手。二礼二拝だね。それから手のひらを合わせて軽くふつうのお辞儀で終わりだ」

「今まで知らなかった」と翔。

 一同は健斗が教えたとおり二礼二拝でお参りした。

「次は座禅ね。座禅って仏教なんじゃないの」

「神道には教義なんてないんだけど鎮魂や黙想は近いかも知れない。座禅、瞑想、マインドフルネスどれも同じだと思う」

「マインドフルネスなら私も時々やってるわ。気持ちを落ち着かせるため、お茶を飲んで十分くらい瞑想するの。翔はどうやっているの」

「そこに正座してしばらく瞑想する」

「何だか本格的ね」

「昔、良くやらされたことがあって慣れてるんだ」

「まあ、正座は付き合わなくてもいいんじゃないかな。座禅だと座具を使ってその上に胡座をかいて座るんだ。正式には結跏趺坐で座るんだけど股関節が固いと難しいと思う。ザックの上に楽な恰好で座っていいと思う。初めてでは難しいと思うけど、何も考えないで頭の中を無にするんだ。まあ、しばらくは呼吸に意識を集中するところからかな。雑念が浮かんだら無理しないで付き合ってまた呼吸に意識を戻すんだ」

 翔以外はザックの上に座った。

「翔はどのくらいの時間瞑想してるの」

「測ったことがないから分からないな。長くて一時間くらいかな」

「結構長いわね。まずやってみて嫌になった人が出たら終わりにしましょ。目は閉じるのね」

「僕は閉じてる」

「座禅だと半眼って言ってほんの少しだけ目を開いて自分の少し前をみたりするな。まあ、心を落ち着けるようにいろいろやってみればいいんじゃないかな」

 一同は瞑想を始めた。20分くらいで巧が足を崩した。

「ちょっと足が痛くなってきた。そろそろ止めない?」

 皆も目を開けた。健斗だけは少し朦朧としているようだ。

「どうしたの、健斗、大丈夫」

「僕の家に来てほしい。鏡からお告げがあった」

「鏡?」

「皆には言っていなかったんだけど僕の部屋に古い銅鏡があるんだ」

「何それ、宮司さんみたいな。で、鏡から取憑りつかれてるってこと」

「そうかも知れない。時々手入れしてるんだけど鏡から求められている気はする」

「この祠と関係あるのかしら」

「わからないな。でも手入れしてると穏やかで前向きな気持ちになれるんだ」

「じゃあ、今度は健斗の秘密告白の番ね。お家に行ってもいいの」

「ああ、お願いするよ。来週の土曜日あたりどうかな」

 みんなで健斗の家に集まることで話がまとまった。

「僕もしばらくぶりで曼荼羅が頭に浮かんだ。最近は魔法円みたいな図形ばかりだったんだけど。心を無にするのは無理だった」

「曼荼羅もルーツは魔法円みたいな図形から始まったらしいからね。真ん中の大日如来はウィムの話を聞いてから始祖神の化身みたいな気がしてるんだけど」

「私も無心は無理だった。巧と見た剣が頭に浮かんでなかなか離れなかったの。頭の中を無にしよう頑張ったんだけど、振り払っても振り払ってもあの時の剣が気になってしまうの。あの剣を抜いて中をみてみたい」

「翔はどう?何か啓示はあった」

「いつもと変わらなかった。ずーっと地面の下の力と繋がっている感じ」

「私も何もなかったな。でも今すごく頭がすっきりしてるの。また翔と来たいわ」

 5人は下山した。巧にとって崖の下りは登りよりさらに大変だったが、アンジェラのサポートで何とか下ることができた。麓に降りたときには巧はふらふらで健斗も大分バテているようだった。二人は翌日ひどい筋肉痛になり歩くのもやっとの様子だった。

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