第12話

フレンドリーな担当は、いつものように早口でベラベラ勝手に喋って勝手に驚いた。


三十代前半の担当は、その年齢では珍しくお腹が大きく出ていた。


そんな体型からして甘いもの好きな彼は、手土産にお気に入りのケーキ屋さんのシュークリームを持ってきたようだ。


だが僕は彼に無言でプリントアウトしたプロットを渡す。




担当は座ろうともせず、立ったままその紙の上に印刷された文字を目で追い、そして感嘆の息を溢した。




「また変わったホラーを考えたね。前作の【深海の肉片】もそうだけど、今回も王道から外れてるね。骸視点か……まあ、君が初めてじゃないけど、よくこんなの思い付いたね!しかも現実の身近な恐怖、自殺後のサイコパスな赤の他人がする死体処理の恐怖、地獄の責め苦や拷問の恐怖。……色んな恐怖があって、いいと思うよ!」




いつものように誉めてくれる担当。彼はいつだって誉めてくれる。


まあ、それはまだプロット段階だから、という事もあるのだが。




僕は笑顔になってくれた担当に、静かな声で聞いた。





「……その【骸を殺された僕】、売れると思いますか?」




前作の時も聞いた質問だった。


そして目の前の男は、僕の問いに一瞬笑顔が消え、そして困ったように笑った。




「……どうかな。面白いと思うけど、それを決めるのは買ってくれた読者だからね。正直、僕たちも売ってみなきゃ結果なんて分からないんだよ」




嗚呼、また同じ答えか。


少しだけ不服そうな表情を浮かべた僕に気づいたのか、担当は慌てたように言葉を続けた。




「でもね!君はまだ若いんだよ?有名になった小説家には、遅咲きの人だって沢山いる。これからだよ!いっぱい小説書いていけばいつかヒット作が出て、それで有名になれば、他の作品だって売れるさ!」

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