第13話

必死にそう言ってくれた担当。


その言葉に、僕は胸が熱くなったのを感じた。


安堵と、そして感謝の気持ちが溢れ出してくる。




そういえば、担当はいつだって僕を応援してくれた。励ましてくれた。


数字も結果も出せない僕なのに、優しくしてくれた。




僕は目頭が熱くなっていくのを我慢し、そして聞いた。




「僕……売れない作品ばっか書いてきてますけど、捨てないんですか?」


「逆に売れる作家のほうが少ないよ!それに、僕は君の作品が好きだよ!いつか絶対に売れるって、信じてるからね!」




お腹が出ている担当は満面の笑顔を浮かべてそう言って、下手くそなウインクを送ってくれた。


その言葉に、僕の涙腺は呆気なく崩壊してしまった。


でもそれを見られたくなくて、僕は彼に背を向け、「ありがとうございます……」と、震えを抑えながら呟いた。


その小さな礼の言葉が、ちゃんと担当の耳に届いたかは、分からない。


けれど気配で、彼がまた笑った気がした。






──────そうだね。僕は少し、焦りすぎたみたいだ。



一番近くに、僕の作品を面白いと、好きだと言ってくれる人がいる。


いきなり大勢の人間に好かれようだなんて、ちょっとそれは難しくて傲慢だったみたいだ。


この小さくて大きな存在を大切にしよう。


僕は、僕だけにしか書けない世界を崩しちゃいけないんだ。


王道だとか、売れる作品だとか。そんなことばかり気にしちゃきっと気付けるものも気付かない。




そんな暇があるなら、書こう。僕の仕事をしよう。


全力でやって、やり続けて、それで結果が出なかった、それはそれでその時に考えればいいさ。





僕は目薬をさして、涙を誤魔化し、笑った。


売れない小説家だけど、いつかはファンレターの一通ぐらい貰えるような作家になろう。




……え?最後に名前を教えろって?そしたら買ってやるのにって?


嫌だよ。そんなのアンフェアだ。不公平だ。


それにもしも君が読んでつまらないと思ったら、ここのレビュー欄が荒れるだろ?


批判レビューは、あの某オンラインショップのサイトだけで十分だからね。











──────こうして僕に大切なことを思い出させた作品、【骸を殺された僕】。


この作品が僕にとって嬉しい事実と記録を作ってくれることを、今の僕は知らない。










売れない僕の需要無き作品【完】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る