第9話

文章を書かず、今さらなことをぐちぐちを考えてしまう僕。


自分ってこんなに面倒くさい性格だったか、と驚く。




お世辞にも綺麗とは言いがたい仕事部屋。資料の本や、読み掛けの本が床のスペースを支配し、踏まないように進むのが困難な程。


窓はぴったりと閉じられ、カーテンも引かれ。


薄暗く不気味な無音の空間にただひとり、椅子の上でじっとしていると、自分が生きていることすら忘れてしまいそうだった。




もしこの場で僕が死んでも、きっと誰も気付かない。




ああ、担当は気付くかな。新作の件で、手土産を片手にこの部屋を訪れるかもしれない。


そこで死んだ僕の体を見付ければ、あの口煩い担当はどんな悲鳴をあげるだろう。




想像したらなんだか可笑しくなって、声も出さず肩を震わせた。





たとえ本当に僕が死んでも、親や友人以外に悲しんでくれる人は存在するだろうか。


有名人なら、ネットやTwitterなどでその死を悲しんでくれる人が確認できるだろうが、僕の場合はきっとあり得ない。





この世界に、この国に、僕の作品を読んで、僕が死んだことで残念だと思ってくれる人は、きっといない。

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