第8話

まあ、僕の感想なんて誰も求めていないんだろうけど。誉めたところで媚売り、批判しても嫉妬と勘違いされるに違いない。


僕は作家である前に読者でもあるのにね。





嗚呼、もうどうすればいいんだろうか。


売れる作品、面白い作品。


考えても考えても、分からない。




まだ純粋に読者だった頃の自分が羨ましい。戻りたい。


文章を追い、物語に溺れ、世界を楽しんで、簡単に感想を口に出せた、あの時の自分に戻りたい。



友達はいた。僕と同じ本好きな奴が、数人いた。


文芸部員だって、仲間だった。文章を書くことに楽しみを見いだした者同士、楽しかった。




だけど、大人に近づく度に、皆作家になる夢を手離した。


現実的じゃない。どうせ無理だ。もっと安定した仕事に就くんだ。……皆そう言って、原稿を、ペンを、下書きデータを捨てた。




僕だけは、辞めなかった。どうしても、小説家になりたかった。


僕から作品を奪ってしまったら、もうなにもない。空虚だ、存在価値がない。




だから賞を取った時は涙が出たし、紙になった自分の本に触れた時は、担当と一緒に飲み明かした。


幸せだった。夢心地だった。世界が輝いていた。




そう、数字を見るまでは。





低い数字。それは、僕の明るい世界を簡単に壊した。


担当は、皆最初はそんなものだと言ってくれたが、僕はそれでも悲しかった。




若くして作家デビューを果たしたからこそ、僕はまだ自分が天才だと思っていたから。




実際は年齢など関係ない。売れる作品を書いた者が有名となる。小説の帯に年齢が晒されるわけでもないし、若ければ若いほど有利というわけでもない。


読者が求めるには、年齢でも才能でもないなんでもない。




ただ、面白いか、否か。

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