第3話

なにに憤慨したって、そりゃ中身さ。内容さ!



だって、王道だったんだ!ワケあり物件に引っ越して独り暮らしをする男性、次々と起こる怪奇現象、暴かれる家の過去、真実!


よく使われるテンプレートな作品が売れてるなんて、僕は信じられなかった。



なんで読者は、こんな他の作品と類似点が圧倒的に多いこんな本を買うんだ?


どうせなら、読んだこともない斬新な設定のホラーがいいだろうに!



どこにでもあるようなホラーにお金を出すなんて、頭がイカれてるって、僕は正直そう思った。




でも、それが現実だった。


読者は斬新さより、王道が欲しかったんだ。




なら、望み通り王道を書いてやる。僕はそう思ってパソコンにかじりついて、ひたすらキーボードを叩いた。


耳に届く小気味良いカタカタという音に、満足感を得ながら、自分じゃ全然満足できない王道作品を打ってみる。



暑さに顔をしかめた担当が僕の部屋を訪れ、原稿見たときは熱い麦茶を一気飲みした見たいな顔になって、

「ボツだよ!ふざけないでちゃんとやってくれ!君の持ち味をなくすな!」って怒られたけど。




僕の些細な読者への媚売りは呆気なく終わり、また自分だけが面白いと感じる作品に時間を削っていった。




だが、今は……うん。うんうん。






ところで君は小説を書いたことがあるかな?それとも、ただの読者なのかな?


もし前者だとしたら、きっと僕の苦しみを解ってくれると思う。





僕は作家の敵である、もっとも堪えがたい苦痛、スランプを味わっている。


だからスクリーンが見事なくぐらい真っ白なんだよ。はぁ。




文章も、展開すら浮かばない。


新作を書かねばならないのに、ネタ張にはもう使えそうなものはないし、担当からの催促のメールの通知が煩くて仕方がない。

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