第13話 欲望
その先が、芸能、サブカルチャーの棚というのも因業なことだ。以前であれば、この棚がわたしの主戦場であった。怪談、呪術、ハッキング、非合法マニュアル、ゴシップ、そして都市伝説。それはサブ、などではなく世界のメインストリームだ。「文化」よりも「風俗」こそが肌に近い。それらは常に粘質的で流動的な渦運動を繰り広げる。結局、「文化」とは「風俗」を時差的にとらえた考古学の謂いなのだ。ライブのみに意味があるというのではない。しかし、我々は既にライブから常に遅延したライフを生きるよりほかなく、それだけでもう十分に内省的にならざるをえない。芸能、サブカルチャーの棚は、明解に「欲望」とリンクしている。「欲望」の拡大と拡大再生産こそが「生命」であり、その仕組みが「経済」であり、それが機能する組織が「社会」なのだから、ここにこそメインストリームがあるという認識はあながち誤りではなかった、としつつも、書店におかれたものの全てが商品であるからには、それは元来自明でもあるのだ。これまでに書かれたことがないことにこそ価値がある、のではなく、今、生きている人にとって既知か未知か、が重要だった。歴史が繰り返す理由はそこにある。世代交代とは忘却と再履修のシステムであり、この繰り返しにおけるわずかな変化の蓄積が、ある時、大きな進化をうながすのだ。実際、この棚には当時の私が知らなかった事実はほとんどない。ほとんど、というのは、例えば当時は存在しなかったスマートホンのハッキングマニュアルのようなもので、つまりは技術系の知識だけである。いわゆる文系の知識は全滅だ。だが、この棚が無駄ではない理由は、この棚からサブカルを知る世代にとって、ここしかない、という場であるという点である。そして今のわたしが、「目新しさがない」からと、この棚の書籍を手に取りもしないことから、世代間格差は生じていることもまた事実なのだ。同じだ、と断ずることができるのはわたしであり、だからといって今、この棚を物色している青年とわたしとの間で会話が成立するか、といわれればNOと即答できる。なぜならば、わたしはそれを望まないし、彼はわたしに期待していないからだ。未来を生きるのは彼であって、わたしではない。とはいえ、わたしはわたしで、過去に閉じこもるつもりは決してないのであった。
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