第10話 名前を読んではいけない者たちの解放

フィオラとカイルが新しい世界の中心に立ち、彼らが創り上げた星々の光が彼らを包み込んでいた。静寂と平和の中で、彼らはようやくひとつの長い旅を終えたと感じていた。しかし、完全な安らぎが訪れる前に、まだ解かなければならない謎があった。それは「名前を読んではいけない者たち」という存在に関することだった。


「名前を読んではいけない者たち」という存在は、これまで幾度となく彼らの旅路に影を落としてきた。彼らは恐怖と混乱をもたらし、時にフィオラやカイルを試練の中に引きずり込んだ。だがその本質を理解した時、それらの存在がただの恐怖や邪悪の象徴ではなく、何かもっと深い意味を持っていることに気づいた。


「彼らは、私たちが過去に背負ってきたものを映し出していたのかもしれない。」カイルが静かに言った。


フィオラはそれに頷きながらも、まだ何かが腑に落ちない様子だった。「それでも、彼らは怖かったわ。私たちが求める新しい世界には、そんな存在は必要ないはずよ。」


「でも、彼らが恐怖を生む存在であったことに意味はないと思う。」カイルの言葉には、どこか深い理解があった。「彼らは、私たちが過去に作り上げてきた、抑圧された感情や、未解決の苦しみを象徴していたに過ぎない。」


その瞬間、二人の前に突然、かつて「名前を読んではいけない者たち」と呼ばれた者たちの姿が現れた。彼らは、かつてのように恐怖をもたらすことなく、静かに佇んでいる。もうその姿は、無機質な存在ではなく、ただの影のように薄くなり、形を持たない存在となっていた。


フィオラは少し驚きながらも、その者たちを見つめた。「あなたたちも、もう役目を終えたの?」


その問いかけに、名前を持たぬ者たちは答えなかった。ただ、ゆっくりとその形が消えていくのがわかる。


「私たちは、あなたたちの影として存在し続けてきた。しかし、もはやあなたたちが恐れずに自らを受け入れることができる時が来た。」無声のままで、その存在は語りかけていた。


「恐れずに…受け入れる?」フィオラはその言葉を噛み締めるようにして思った。確かに、これまで彼らが恐れ、避けてきたものの多くは、実は自らの中にあった。名前を読んではいけない者たちが現れる度、彼らはその存在に対して反発し、恐れを抱いていた。しかし、それを受け入れることで、その存在が何であったのかを理解することができるとすれば、それが解放の道だと気づくことができた。


「私たちはもはや、あなたたちを恐れなくて良い。」フィオラは静かに言った。


「そして、あなたたちが消え去ることで、私たちもまた一歩前進できる。」カイルが続けた。「あなたたちの存在は、私たちに必要な教訓を与えてくれた。しかし今、それを超えて新たな未来を築く時が来た。」


その言葉に、名前を読んではいけない者たちは、まるで彼らの言葉に応えるかのように、静かに光となって消えていった。恐ろしい姿も、混乱をもたらす存在も、すべては一瞬にして姿を消した。そして、そこに残されたのは、ただの静寂と安らぎだけだった。


フィオラは深く息をつき、カイルと向き合った。「彼らは、私たちが受け入れられなかった過去の一部だったのね。それを手放すことで、私たちは新しい自分を見つけることができた。」


カイルも頷き、その言葉に共感した。「過去を恐れることなく、今を生きることができれば、未来にはもっと多くの希望が広がる。そして、それが本当の解放だ。」


二人はその場でしばらく静かに立ち続け、消え去った名前を読んではいけない者たちの存在が、今はもう何も恐れさせるものではないことを確認した。その解放は、ただ恐怖から解き放たれるだけではなく、自らを深く理解し、過去の重荷を下ろすことに繋がった。


新しい世界は、もはや名前を読んではいけない者たちを必要としない。すべての存在は、その本質において解放され、次第にその光を増していった。フィオラとカイルはその光の中で、心から安堵し、そして次なる未来への準備を始めた。それは、名前を読んではいけない者たちの解放から始まった、真の自由と新しい命の誕生だった

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