第25話

「私から、逃げないの?」


「っ、逃げねぇよ!」


「いつも私から逃げてばかりの癖に、今回は違うんだ?」


「当たり前だろ!お願いだから、こっち来て!俺のとこに、ほら!」





男が必死になって、私に手を伸ばしてくる。


今夜の彼は、異常なぐらい優しい。


熱気と湿気を含んだ夜風に私の長い黒髪が乱され、手で邪魔な髪を耳にかけた。





バレないようにジリジリと迫る男性は、私の彼氏。


一個上の先輩で、皆の憧れの的だった。


爽やかで、優しくて、成績優秀の完璧人間。




彼女である私に素っ気ない態度を取っているけど、本当は私のことを想ってくれてるって知ってる。


冷たい言葉の裏にある愛情を、私はいつも感じてた。




けれど、今回はダメ。


浮気は、許せない。


私に隠れて違う女とデートしたりして、許せない。




だから、私は決めた。


恋は押して引く。




いつも貴方を追いかけてばかりだから、今度は貴方が私を追いかけてよ。

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