第26話
「あ、花火だよ!凄い、こんな所からでも見れるんだっ!」
私は、遠い場所から上がっている美しい花火に目を細めた。
有名な花火大会の花火が、こんなに離れている、しかも会場と違って人気のないこの場所からも見えるなんて……
激しく上がって、儚く散り、悲しげに消える花火。
まるで、恋みたい。
残酷なほど美しく、罪なほど容易く消滅してしまう。
けれど彼は、花火に興味がないみたいだった。
歓声が聞こえるけど、彼の耳には届いていないようで、表情をピクリとも変えず、相変わらず私に近付いてくる。
「……ふふっ、私を捕まえる気?」
「そうだ!」
「なんで?彼女だから?もしそうなら、なんで浮気なんかしたの?」
「……っ、お前!いい加減にしろよ!俺はお前の彼氏じゃねぇし、付き合った事だってないだろ!勝手に妄想して、信じ込んで、本当にうんざりなんだよ!その自殺の真似事も、いい迷惑だからはやくやめろ」
……私の彼氏は可笑しなことを言う。
私と付き合ってることを隠して、挙げ句に照れ隠しにそんなこと言うなんて……
呆れた。
本当に、どうしようもない人。
私は顔から笑みを消し、夏に似つかわしくない恐ろしく低い声で呟いた。
「……失望した」
「は?──────って、おい!!やめろっっっっっ!!」
嘘つき彼氏が叫び、私に駆け寄ると、手を掴んだ。
けれど私は酷く冷めた表情で彼を見つめ、そしてそんな彼の手を逆に強く強く握ると、十五階の建物の屋上から、宙へと飛んだ。
──────恐怖と衝撃の色に染まった、彼氏の顔が至近距離にある。
私は初めて彼と唇を重ねると、強く抱き締めて、囁いた。
「花火と一緒に、散ろう?」
─────灰色の地面に、鮮やかな紅の花が、咲いた。
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