第21話

本当は、今日。


本当は今日、恋人と来る筈だった。





都会に慣れている彼は、花火を会場ではなくホテルで見ようと言った。


十階以上の部屋を取れば、そこから両側の花火を見ることが出来るからと。


二人でゆっくり見ようねって、明るい笑顔でそう私に言ってくれたのに。



まさかの花火大会前、正確には先週一方的に別れを告げられた。



理由を尋ねれば、彼は溜め息を溢し、

ついさっきまで甘いキスをくれた唇で答えた。



「飽きたから。ついでにもう、新しい彼女いる」





……最低最悪な男だと、そこで初めて夢から褪めた。




ドラマみたいなビンタさえ、あの時の私は思い付きもしなかった。




ただ、絶望した。





私はこんな男に時間と愛と体を捧げていたのかと。


彼から告白されたのに。


彼から私を求めてくれたのに。



熱が一気に急降下して、残ったのは体温のみ。





恋に褪めてしまえば、その後は愛も冷めるかなと思っていた。




花火大会だって、私は別に乗り気じゃなかった。


でも彼が、あの花火大会を見に行こうと勧めるから、浴衣も一緒に選び、予定だって立てたのだ。




外でちょっと見てから、ホテルでゆっくり睦まじく見ようって。


そう言って笑いあって、キスして、抱き合って、また笑って。




なのに現実は、

瞬きするよりも容易く壊れ、崩れ、消えた。





男に未練なんて、持つわけないって思ってたのに。


どうやら私は、

自分が思っていた以上に彼を愛していたようだ。


愛していたから、別れてもうフリーなのに、彼と一緒に買った浴衣を着て、ひとりでこんな場所にいるんだ。

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