第20話
……都会の空気は、毒を含んでいて、
酸素不足になりそうだった。
初めて来た都会の花火大会。
慣れない下駄に、慣れない浴衣。
違和感しかない髪飾りに、お腹を締め付ける帯が息苦しさを倍増させる。
慣れないものに身を飾り、自分自身を不快感で満たしている私。
大都会の有名な花火大会は、田舎出身の私には苦痛でしかない。
猪や鹿、狸の代わりにいる、いや倍以上いる人間たちにこんなにも酔いそうになったのは、上京初日以来だった。
押して、押され、潰し、潰され。
こんなに苦しく大変な思いをしてまで花火が見たいのかお前ら、と唾の代わりに毒を口内で呟く。
夏の熱気と哺乳類の熱気が混ざり、薄化粧した顔に透明の粒が浮かび始め、ハンカチでそれを拭う。
皆、桜橋下流に向かって歩いている。
第一会場がそこだからだ。
私は人の波に逆らわず、半分回転寿司のお寿司の気分を味わいながら流され、歩いた。
そして歩きながら、ふと空を見上げてみる。
漆黒と呼ぶには、少し明るい空。
都会の光が、自然な闇に侵入し、本来の深い黒を汚している。
星だって見えないこの空は、田舎で見たあの綺麗な星空とは丸きり違っていた。
同じ地球なのに。
同じ国なのに。
同じ空なのに。
清んだ湧き水と泥水ぐらい、違う。
何故ここまで違うのだろう。
それとも、ここまで空が穢く見えるのは、
私の心が曇っているからなのか。
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