第10話

大学卒業して、就職して。




その頃が一番忙しくて、初めて電話ができない日々が続いたよね。




初めての仕事、責任、環境の変化、ミス、上司の圧力。


何もかもが新鮮で、そして大変だった。



学生時代、テストが嫌だの論文が面倒くさいだの言ってたけど、会社で働くようになって、そんなの優しいと思った。




そしてお互いやっと落ち着いて、久しぶりにデートした時、初めて愚痴を言いながらお酒を飲んだよね。


君は泥酔して、僕も歩けるのがやっとなぐらい酔ったよ。





タクシーに乗って帰って、初めて君は僕の部屋で寝た。


僕も倒れるように寝て、そして起きたとき、驚いたよ。




君が顔を真っ赤にして、僕を睨んでいるんだもの。


涙目だったし、僕は慌てて起き上がり、なんでそんな顔をしているの、と聞いた。




『だって……なんで私、あんたの部屋で寝てるのよ?!』





……すっかり記憶が抜けてたみたい。




僕が笑って答えると、君は安堵したように肩を落とした。


確かに、記憶がないのは怖いよね。今度からはお酒もほどほどに。

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