第5話

「紅葉!!おまっ……なんでここに?!」


「そんなことより千枝、千枝は?!」


「千枝は……まだ部屋だ!!」





─────最低な男。





動きが遅い千枝を残して、自分だけ逃げてきたなんて。




でも私は焦燥の表情を作り、





「晃は安全な場所へ行ってて!!」


「紅葉、どこに行くんだよ?!ホテルはもう火が……!!」


「千枝を助けにいかなきゃ!!!」




そう言うと、火に包まれたホテルの中に飛び込んだ。


晃の叫び声が聞こえるが、無視して火の中を走る。




このラブホテルの構造は知っている。


私はなるべく煙を吸わないように気をつけながら二階へ上がり、千枝の姿を探した。




すると、ようやく見つけた。


赤いワンピースを着た親友が、激しく咳をしながら必死に逃げようとさ迷っているのを。



私は手で口を覆いながら、叫んだ。





「千枝!!!」


「ゴホッ……ゴホゴホッ、……え、も、紅葉?!ど、どうして……」


「いいから、早く逃げるわよ!!」





私は驚く千枝の手首を強く掴むと、階段の方へ走り出した。


けれどもう、階段も火に満たされていて、とても通れる余裕なんてなく。





私は彼女を、二階の窓へ連れていった。


窓を開け、下を見る。




クッション代わりになりそうなものはないが、それでも焼死するよりはマシだ。




私はまだ咳をしている千枝の方を見て、毅然とした態度で言った。





「ここから飛び降りるよ、千枝」


「えっ……ゴホッ、無理だ、よ……っ、死ぬよ……!!」


「このままここにいたって死ぬわよ」


「でもっ……!!」




涙目で首を振って嫌がる千枝。


もうそのすぐ後ろは赤い火で、逃げ場所なんかここしかないのに。




……ああ、本当にいい子ね。


臆病で、扱いやすい。


嫌がるのも、想定内。



知ってるよ、知ってたよ。


千枝は絶対にここから飛び降りないことを。


だってそんな勇気、あんたは持っていないものね?






私はニッコリと最高の笑みを浮かべて、千枝の肩に手を置いた。






「……そう。なら千枝……ここで、お別れね」


「……え?」






一瞬唖然とした千枝。


けど次の瞬間、私は彼女の体を強く突き飛ばした。




そして。








────千枝は悲鳴を上げ、炎に呑み込まれてしまった。

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