第4話
私だけが知っていた。
私だけが感じていた。
私だけが抱かれていた。
なのに、千枝が今夜それを味わう、堪能する、溺れる。
……許さない。
絶対に許さないし、許せないし、許す気もない。
千枝に晃は渡さない。
私の初恋を、失恋に変えることなど許さない。
私はラブホテルの裏に回ると、裏口のドアノブを回した。
幸いそこには誰もいなく、私は持っていたライターで、ゴミ箱にあるゴミに火をつけた。
燃えやすい紙くずが大量にあって、すぐに火は大きくなり、煙が出てきた。
私は外に出る前に、フロントかキッチンへと続くドアの隙間に紙屑を詰めた。
この部屋に入って火を消されないように、キツくキツく。
そして私だけ無事に外へ出ると、前に回って見上げた。
……千枝……
今頃、晃に愛撫されているのだろうな……
処女だから、特に時間をかけて……優しく、甘く……
冷たい目で見上げ続けていると、誰かの悲鳴が聞こえた。
きっと、誰かが火に気付いたのだろう。
騒がしくなったラブホテル。
けれど、愛し合っている恋人達はまだ気付いていないのか、煩いのは一階だけだった。
そして火はなかなか消えないのか、遂に部屋に連絡が入った。
その証拠に、上の階からも次々と大きな悲鳴が響き始める。
私は微笑むと、千枝に電話を入れた。
「……もしもし、千枝?どう?楽しんでる?」
『紅葉?!待って、今それどころじゃないの!!火事が、火事が……って、晃君!!!?どこに行くの?!待って!!』
ブツッ、という音と共に切れた通話。
私は笑みを深めると、ラブホテルのフロントに近付いた。
フロントはもう火に満たされていて、でもまだ逃げれるだけの余裕があった。
けれど火は、後ろから上へと広まったらしい。
恋人達が中途半端に着た服装で慌てて私の横を通りすぎていく。
そして火の中から、晃の姿が飛び出してきた。
彼は私を見付けると、驚愕の表情を浮かべて叫ぶ。
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