第8話 鏡の告白

鏡の中の影たち――それは単なる映像ではなかった。彼らの言葉は、カイルとフィオラの心の奥深くをえぐるように響いた。


「嘘をついている、だと?」カイルは、自分自身の鏡像と対峙しながら拳を握りしめた。「何のことだ?」


「お前は知っているはずだ。」鏡の中のカイルが冷笑を浮かべる。「あの日の選択がどれほど多くの人々を傷つけたか。だが、お前はそれを見て見ぬふりをしている。」


「違う!俺は――」カイルの声が震える。


鏡のカイルは一歩前に進み出た。「否定するな。お前は英雄などではない。ただの臆病者だ。」


一方で、フィオラもまた、自分の鏡像に言葉を突きつけられていた。


「あなたは常に誰かの影に隠れている。戦う力がないことを知っているから、自分の責任から逃げ続けている。」


「そんなことない!私は……私は自分なりに戦ってる!」フィオラは声を荒げたが、その言葉にはどこか自信が欠けていた。


「戦っている?笑わせないで。あなたが選んだ道は、いつも自分を守るためだけのものだった。」鏡のフィオラが冷たく言い放つ。「カイルと一緒にいるのも、彼に依存しているだけ。」


「やめて……!」フィオラの目に涙が浮かぶ。


鏡の中の影たちは、次第にその姿を鮮明にし始めた。それは単なる映像ではなく、実体を持つ存在へと変化していく。


カイルの鏡像が彼に近づき、低い声でささやいた。「お前が自分を偽り続ける限り、この扉の先には進めない。」


フィオラの鏡像も同じように彼女に迫る。「あなたが弱さを認めない限り、真実にはたどり着けない。」


「俺たちはどうすればいいんだ……?」カイルが呟くと、塔の奥からローブの男の声が響いた。


「鏡は真実を映し出すだけだ。お前たちがそれを受け入れるか否か、それが試練だ。」


カイルは鏡像を見つめながら、深い呼吸をした。「もし、俺が嘘をついてきたのなら、それを認めるよ。でも、俺はその嘘を償うためにここにいる。」


その言葉に応じるように、鏡の中のカイルが微笑み、薄く溶けるように消えていった。


フィオラもまた、自分の鏡像に向き合った。「私は……確かに弱いかもしれない。でも、だからこそ、カイルと一緒にここに来た。私は逃げない!」


彼女の叫びに、鏡の中のフィオラもまた静かに姿を消した。


扉が重々しい音を立てて開き始める。二人の試練が終わり、新たな道が開かれたのだ。


「行こう、フィオラ。」カイルが彼女に手を差し出す。


「うん!」フィオラはその手をしっかりと握り、二人は塔の奥へと足を踏み入れた。


そこには、これまでの旅では見たことのない光景が広がっていた。星々が宙に浮かび、まるで宇宙そのものが目の前に広がっているかのようだ。そしてその中心には、一冊の古びた本が浮かんでいた。


「これが……星喰いの神話の核心?」フィオラが息を呑む。


「いや、まだ始まりにすぎない。」カイルが本に手を伸ばした瞬間、空間が激しく揺れ始めた。


「来たか……」ローブの男の声が再び響く。「真実を知る覚悟があるなら、すべてを受け入れろ。」


そして二人の目の前に現れたのは――星を飲み込む漆黒の影だった。

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