第7話 虚ろの都

地図に示された「虚ろの都」への道は、これまで以上に険しかった。荒れ果てた森を抜け、崩れた山道を越え、ようやく二人は目的地へとたどり着いた。しかし、その光景は想像を超えていた。


目の前に広がるのは、廃墟と化した巨大な都市。高くそびえる建物はすべて崩れ落ち、街全体が灰に覆われている。そこには、生命の気配がほとんどなかった。ただ、風が冷たく吹き抜ける音だけが響いている。


「これが……虚ろの都……?」フィオラは呆然と立ち尽くし、口を覆った。


「誰もいないのか?」カイルが慎重に辺りを見回しながら、ゆっくりと廃墟の中に足を踏み入れた。


歩き始めて間もなく、二人は街の中央にそびえる奇妙な塔に目を奪われた。ほとんどの建物が崩壊している中、その塔だけが不気味なほど無傷で立っていた。表面には何かの紋様が刻まれ、塔の上部からかすかな光が漏れている。


「きっと、あの塔に何かがある。」カイルがフィオラに目配せし、塔へと向かった。


塔の入り口に到着すると、巨大な扉が彼らを待ち受けていた。その表面には複雑な紋章が浮かび上がり、触れるとまるで生きているかのように光を放つ。


「これ、どうやって開けるんだろう……?」フィオラが扉を触れながら首をかしげる。


その瞬間、地面が震え、塔の前に影が現れた。黒いローブをまとい、顔を隠した人物が立ち塞がる。


「ここへ何の用だ。」その声は低く、威圧感に満ちていた。


「俺たちは真実を探している。この塔の中に、その手がかりがあると知っているんだ。」カイルは怯まずに答えた。


ローブの男はしばらく沈黙した後、低く笑い始めた。「真実を、だと?だが、その代償を払う覚悟はあるのか?」


「代償?」フィオラが訝しげに尋ねる。


「この扉はただの扉ではない。お前たち自身が最も恐れているもの――それに直面する覚悟がなければ、開かない。」


カイルとフィオラは互いに目を見交わした。それぞれの心に浮かぶ不安と恐怖。それでも、立ち止まるわけにはいかなかった。


「俺たちは進む。」カイルはきっぱりと答え、扉に手を伸ばした。


ローブの男は再び笑い、ゆっくりと姿を消した。「では、見せてもらおう。その覚悟を――」


扉が青白い光を放ち、ゆっくりと開いていく。その奥から、闇と光が入り混じる空間が現れた。


塔の中は、まるで異次元のような空間だった。上下左右の感覚が歪み、遠くには無数の光が揺らめいている。


「ここは……現実なの?」フィオラが息を呑んだ。


「わからない。でも、何かが俺たちを待っている。」カイルが一歩足を踏み出すと、空間が波紋のように揺れ動いた。


その瞬間、二人の前に巨大な鏡が現れた。鏡の中には、彼ら自身の姿が映っている。だが、その姿はどこか違う。目には深い悲しみと怒りが宿り、まるで別人のようだった。


「これ……私たち?」フィオラは震える声で言った。


「いや、これは――」カイルが何かを言いかけたとき、鏡の中の彼らが動き出した。


鏡の中のカイルが冷たい目でこちらを見つめる。「お前は嘘をついている。自分が恐れているものから目を逸らしているだけだ。」


「俺が恐れているもの?」カイルは言葉を失った。


同時に、フィオラの鏡像も声を上げた。「あなたは弱い。いつも他人に頼り、自分で立ち向かおうとしない。」


「そんな……!」フィオラは後ずさった。


二人は自分たちの中に潜む恐怖を突きつけられ、立ち尽くすしかなかった。


「この塔は、真実に至る試練を課す場所だ。」ローブの男の声が再び響いた。「お前たちがそれを乗り越えられるかどうか――見させてもらうぞ。」


果たして二人は自らの恐怖を乗り越え、塔の最奥に辿り着けるのか。真実への道は、さらに険しくなっていく――。

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