第6話 封じられた鍵

カイルとフィオラが目を覚ました場所は、これまで通ってきた道とは全く違う景色だった。薄暗い森の中に、崩れかけた古い石碑が並んでいる。空気には湿り気があり、苔の匂いが漂っている。


「ここ……どこだろう?」フィオラが周囲を見回しながら呟いた。


「さっきの影が言っていたこと、まだ頭の中に残ってる。俺たちの中に答えがあるって、どういう意味だろうな。」カイルは額の汗を拭きながら、慎重に石碑の一つに手を触れた。


その瞬間、石碑が青白い光を放ち始めた。


「なんだこれ?」カイルが驚き、手を引っ込めると、光の中から一人の老人が姿を現した。背は低く、長い白髪と髭が風に揺れている。


「ようこそ、旅人たちよ。ここは『星喰いの記憶』が封じられた場所だ。」老人の声は低く、どこか懐かしさを感じさせる響きだった。


「星喰いの記憶?」フィオラが一歩近づく。「あなたは誰なの?」


「私はこの場所の守護者。星喰いが封印されたとき、その記憶の一部を託された者だ。」老人はゆっくりと歩み寄り、二人をじっと見つめた。「だが、時が来たようだ。その封印を解く鍵を、お前たちが持っている。」


「俺たちが鍵?」カイルは眉をひそめた。「どういうことだ?俺たちはただ、真実を探しに来ただけなんだ。」


老人は静かに首を振った。「お前たちがこの道を選んだ時点で、運命は動き始めていたのだ。さあ、思い出すがいい。お前たち自身の中に眠る記憶を――」


老人の手が二人の額に触れた瞬間、世界が暗転した。


二人の目の前に広がったのは、彼らの知らない光景だった。無数の星々が瞬く空間。その中で、巨大な存在がゆっくりと動いている。それは星喰いの本体――空間を飲み込みながら、自らの姿を変えていく闇のような存在だった。


「これが……星喰い……?」フィオラの声は震えていた。


「いや、違う。」カイルは目を凝らしていた。「何かが変だ。この星喰い……俺たちが知っている姿と違う気がする。」


その瞬間、星喰いが彼らに語りかけてきた。


「お前たちが見ているのは、私の『始まり』だ。」


「始まり?」フィオラがその言葉を繰り返した。


「私はかつて、ただの観測者だった。星々の誕生と消滅を見守る存在として生まれた。だが、人間たちが私を恐れ、私の名前を歪めた。その恐怖が、私を変えたのだ。」


「じゃあ、本当の星喰いは――」


「お前たちの中にいる。」


星喰いの言葉に、二人は思わず息を呑んだ。


「俺たちの中に……?」カイルは困惑しながら問いかけた。「それってどういう意味だ?」


「人間たちが持つ欲望、支配、恐怖――それらが私を形作った。そして、お前たちもまた、その一部なのだ。」


その言葉と共に光景が一瞬で消え、二人は再び現実に引き戻された。老人が静かに目を閉じている。


「見ただろう。真実の一端を。」


「……見た。だけど、それをどうすればいいの?」フィオラは焦燥感を隠せなかった。


「お前たちがこれから選ぶ道次第だ。」老人はフィオラの肩に手を置いた。「星喰いをただ封じ続けるのか。それとも、その名を解放し、共存の道を探るのか――それはお前たちに委ねられている。」


カイルはしばらく沈黙した後、静かに言った。「俺たちは、その答えを探し続けるしかないみたいだな。」


老人は微笑み、ゆっくりと姿を消した。


その場に残されたのは、一枚の古びた地図だった。それには、次の目的地が記されていた――**「虚ろの都」**と呼ばれる場所が。


「次はここか……」カイルが地図を握りしめる。「行こう、フィオラ。ここで立ち止まるわけにはいかない。」


「うん、行こう。」フィオラも頷き、二人は歩き出した。


次の旅路には、さらなる謎と試練が待ち受けていることを知らないまま――

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