第5話 本音の涙
「春菜、春菜?」
肩を揺さぶられてハッと顔を上げる。その衝撃で、瞳の際に長く滞在していた涙が、ぼろぼろとこぼれた。
「え、どうした?」
いきなり泣き出した私に、驚いたように下唇を出す夏葉。困ったときの癖だ。
「夏葉ぁ」
情けない声が漏れる。
(私たち、またやり直せるかな?)
勝手に縁を切ったつもりでいて、虫が良すぎるかもしれない。でもやっぱり今日、久しぶりに夏葉に会って、夏葉といると、楽しかった。
「夏葉。私たち、いろいろあったね」
「……うん。そうだね」
「だけど、勇気出して、私を誘ってくれて、ありがとう……」
本音を話すと、堪えていた涙がまた溢れ出す。これが、一番伝えたかったこと。
すると夏葉も目元を抑えて、後ろを向く。
夏葉は、いつもそうだった。泣き顔を、誰にも見られたくないんだって。強い子。
「春菜。やめてよ。泣いちゃう。でも、あたしこそ、ほんっと、ごめん」
夏葉は、笑ってるんだか泣いてるんだか分からない表情で、頭を下げた。
「あたしこそ、春菜とどう接していいか分からなくなっちゃって。ずっと勇気が出なかった。本当なら、春菜の傍にいるべきだったのに」
夏葉は、なんていい子なんだろう。なぜ、それを忘れていたんだろう。
でもそれは離れている期間があったからこそ、気が付いたことでもあって。
離れていた時間は、私たちに必要な時間だったのかもしれない。
私たちがプリ機の前で泣いていると、
「あのー。大丈夫、ですか?」
と、一組のカップルが声をかけてきた。
「プリ機、使わせてもらっていいですか?」
「ああ、ごめんなさい!」
「春菜、行こ!」
涙をすっかり忘れて、そそくさとその場を立ち去った。
「あー恥ずかしかった」
エリアマップの張られた柱にもたれかかった夏葉が、顔を手で仰ぐ。
私の手の中の、自販機で買ったオレンジジュースはびしょびしょだ。
これは結露のせいだけではないと思う。緊張による手汗だ。私は夏葉に、言っていないことがある。
「……夏葉。また、遊んでくれる?」
たったそれだけのことだけど。友達がたくさんいる夏葉にとっては、私と遊ぶ必要なんてないのかもしれないから。
固唾をのんで夏葉を見つめていると、夏葉はニコリと笑った。
「当たり前じゃん! まだ春菜と行きたいところあるしー。でもね」
夏葉はそこで声のトーンを落とした。口元は笑っているけど、今から言いたくないことを言わなければならないかのように、唇は震えていた。
「あたしね、高校を卒業したら、上京するんだ。一人暮らし始めて、東京で学校の先生になる。しばらくは東京で頑張るつもりだから、会えなくなるかも」
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