どうにもならなかったけど
子供の頃から絵を描くのが好きで、
漫画が好きで、お話を作るのが好きで、漫画家になるのが夢だった。
描いていればいつかは夢が叶うと、ただそれだけを信じていた。
けれど「絵の上手な子供」や、「作文が上手な子供」は、いつまでも子供のままではいられない。
子供だったから褒められていたことを、私はすっかり勘違いしていた。
自分の実力ではプロになれないと自覚しながらも、その考えに蓋をする。
どうにかなるんじゃないか。
何とかなるんじゃないか。
そんな一縷の望みにすがっていた。
エンタメ小説という言葉も無く、やっとそれらしき物が世に出始めた頃のことだ。
小説を書くのも好きだったから、そっちへ行こうかと真剣に悩んだこともあった。
ワープロを手に入れて、公募に応募したけれど、もちろん落選した。
漫画も小説も、書き方のイロハも知らずに投稿していた。
しかも一年に一本とか、そんな調子。
漫画が一度だけ、雑誌の片隅に名前が載ったのが、唯一の成果だった。
投稿のための漫画を作るのに疲れていた時、友人を介して「同人誌」を知った。
二次創作で漫画を描きはじめ、本を作り、イベントに出るようになった。
その頃まで私は、自分の拙い漫画も、印刷すればどうにかマシになるんじゃないかと、まだ何かにすがっていた。
下手は下手なまま印刷されていた。
当然である。
上手い人ばかりだった。
絵は残酷だ。
見れば分かってしまう。
逃げ道は無い。
自分はどうしようもなく下手だと、やっと理解した。
すでに私は三十路だった。
でも、それでも描いていた。
描かなければ、一緒の輪の中に居られないから。
描いていればこの輪に入れる。
肩を並べるだなんてことは、到底無理だけれど、輪のすみっこには入れる。
だから描いていた。
それで分かったこと。
自分の絵は下手だけど好きだ。
たとえばもっと上手くなれる魔法があったとしても、使いたくは無い。
この絵は私の絵だからだ。
そして今は、小説を書いている。
小説も下手だ。
なぜなら、私が小説と思って書いていたものは、漫画の字コンテまがいだったと、最近気付いた。
カクヨムで、たくさんの上手な小説を書く人たちに触れて、分かったこと。
すでに私はアラ還だけど、最近やっと、「小説」らしきものを書けるようになったかな、と、思う。
でも、下手な小説も好きだ。
これが私の小説だから。
魔法はいらない。
苦しみながら悶えながら、私は今日も書いている。
この輪に入っていられるように。
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